マイナンバーカード(一部、画像処理)
◆厚労省は「正確な情報に基づき」とメリット強調
政府が、マイナ保険証のメリットに挙げるのは、患者が同意すれば、医師らが過去の診療歴や処方歴を確認できるという点だ。 厚生労働省は「正確な情報に基づいた総合的な診断を受けられる」とメリットを強調。過剰投与や不要な診療を防げるとしている。 ただ、厚労省の言うところの「正確な情報」が、1カ月以上前のデータというケースがほとんどだ。 レセプト(診療報酬明細書)という医療費のデータを基にしているためだ。レセプトに基づく情報は、診療を受けた翌月の11日以降に更新される。そのため情報が反映されるまでに、どうしてもタイムラグが生じてしまう。◆表示されるのは「1カ月以上前」の情報
「マイナ保険証持ってても意味ないじゃん」。神奈川県内の薬剤師は、患者から、こうした不満をぶつけられた経験がある。病院に設置されたマイナ保険証の読み取り機=名古屋市で、2023年7月撮影(一部画像処理)
「新しいデータが表示されるのは1カ月以上先なので、直近の情報を把握するには、今まで通りお薬手帳も必要になる」 この薬剤師は、患者にマイナ保険証の利用を勧めながらも、自分でもメリットを図りかねているという。◆古い情報で「問題起きないの?」
東京新聞にも、利用者から「古い情報にメリットはあると思えない」「お薬手帳で十分」といった声が数多く寄せられている。 東京新聞が6月に「ニュースあなた発」でつながる読者らに行ったアンケートでは、マイナ保険証を使わない理由について「メリットを感じない」と答えた人が、「情報漏えいが不安」や「従来の保険証が使いやすい」と並んで数多くいた。 【関連記事】マイナ保険証なぜ使わない?不人気の理由を聞いてみた 「便利」の声もあるけれど…<あなた発アンケート> ある透析患者は「病状が悪い人ほど薬は頻繁に変える場合が多いのに、1カ月後にならないと反映されないのでは役に立たないどころか、問題が起きる可能性が高い」と疑問視する。◆期待の「電子処方箋」導入たった14%
リアルタイムで医療情報が共有できるよう、厚労省が、マイナ保険証との連携を進めているのが「電子処方箋」だ。 医師が処方した薬の情報をサーバーを介して、薬剤師が取得し、調剤する。サーバーに登録した情報は、患者の同意があれば、医師も薬剤師も共有できる。 レセプトと違い、直近の処方や調剤の履歴も確認できる。 ただし、電子処方箋の普及は進んでいない。 厚労省によると、9月1日時点の導入状況は、薬局で40%を超えるものの医療機関全体では14.6%にとどまる。◆導入に三十数万円、使い勝手の悪さも
ネックの一つはコストだ。 さいたま市で診療所を営む山崎利彦院長は「業者から見積もりを取ると、システム導入に三十数万円、毎月のメンテナンス代に6000円以上かかると聞き、二の足を踏んでいる」と明かす。 医療のデジタル化に詳しい医療関係者は「フォーマットが病院のシステムと異なると、電子処方箋のサーバーに新たに患者の氏名や薬剤情報を、その都度、手作業で入力する手間がかかる」と、使い勝手の悪さも指摘する。 しかも、電子処方箋のような医療情報を確認できるアプリは、すでに大手薬局チェーンでも導入されている。神奈川県の団体職員の男性(63)は「マイナ保険証でなければならない理由が分からない」と話す。◆なぜ普及してから保険証廃止しないの?
厚労省は、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要な柱の一つとして「電子処方箋」を位置付け、2025年3月までに「概ね全国の医療機関・薬局に普及させる」ことを目指している。 電子処方箋が行き渡るまで、現行の保険証を存続させるという発想は、政府になかったのだろうか。 この問題に詳しい国会議員は、「厚労省はそもそも保険証の廃止に後ろ向きだった。それをマイナンバーカードの普及を急ぐ閣僚が期限を切っての廃止に踏み込んだ。これは政治判断だ」との見方を示した。電子処方箋 紙で発行していた処方箋をデジタル化し、病院と薬局がオンラインで情報をやりとりする仕組み。政府は2023年1月から運用を始めた。病院や薬局は処方や調剤のデータをサーバに登録。患者が同意すれば、複数の病院や薬局にまたがる情報も閲覧できる。薬の飲み合わせが悪くないか、同じ薬を重複して処方していないかなど、患者の服薬状況を把握しやすくなる。
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