10月26日に開かれる、朝日地球会議のRe:Ronセッション。「『はて?』から始める 私たちと世界はどう変われるか」と題して、足元の社会課題からグローバルな問題に連なる対話を試みる。脚本家の吉田恵里香さん、政治学者の重田園江さんとともに登壇し、コーディネーターを務めるのは、国際政治学者の三牧聖子さん。女性のエンパワーメントのあり方や、ガザやウクライナで続く戦争との向き合い方……。三牧さんが今、心に浮かべる「はて?」とは。
【参加募集】「はて?」から始めるリロンセッション 10月26日、朝日地球会議
「朝日地球会議 2024」で「『はて?』から始める 私たちと世界はどう変われるか」と題したRe:Ronのセッションを開きます。東京・八重洲で10月26日(土)10:00~11:00、「虎に翼」の脚本家・吉田恵里香さん、政治学者・重田園江さん、国際政治学者・三牧聖子さんが登壇。登壇者を囲んで対話を深めるアフタートーク「Re:Ronカフェ」も予定しています。
- 「虎に翼」脚本家・吉田恵里香さんの「はて?」 自分にできることは
「米国で初の女性大統領が生まれるかもしれない。歴史がつくられること、より平等な社会への端緒として、本当はもっとワクワクしてもいいはずなのに、気分が乗らないのはなぜだろう」
アメリカ政治外交を研究する三牧さんの最大の関心事は、やはり1カ月後に迫った米大統領選だ。共和党のドナルド・トランプ氏と大接戦を繰り広げる民主党のカマラ・ハリス副大統領への懸念が深まっている。
「ガザ対応に批判が集まっています。米国でも、若者を中心に戦禍が続くガザに心を寄せる人たちは少なくない。しかし、ガザ、さらにはレバノンにイスラエルの軍事行動が拡大し、犠牲者が増え続ける中でも、ハリス氏はイスラエルへの武器禁輸はしないと明言し、イランの脅威を強調し続けている。ハリス氏が大統領になることで『変化が起きる』と期待する人たちが見たかったのは、こういうハリス氏ではない」
ハリス氏の地方検事時代からのイスラエルとの関わりや、上院議員時代の親イスラエル的な投票行動を考えると、「残念ながらイスラエルに関する政策転換はなさそうだ」と三牧さんは予測する。
「確かにハリス氏は、ガザでの人道危機を終わらせなければならない、とパレスチナ人の命にも配慮を見せてきました。しかし、その殺戮(さつりく)をもたらしているのは、送り続けられる米国の兵器。武器支援をやめず、イスラエルの自衛権への絶対的な支持を表明しながら、パレスチナ人の命も大事だと主張することは、欺瞞(ぎまん)的です」
「ガザでイスラエルは『自衛』ではとても正当化できない破壊と殺戮を行ってきた。イスラエルとパレスチナの力関係は、圧倒的に非対称なものです。この関係性を無視して、イスラエルの自衛権とパレスチナ人の命を両論併記することは、残酷な事態の単なる追認です。昨年10月7日に殺されたイスラエル人については、感情をこめて語ってきたハリス氏は、パレスチナ人については『あまりに多くの人々が殺されている』という同じ表現を繰り返している。パレスチナ人が被ってきた暴力や歴史的な不正義への共感や想像力が欠けているといわざるを得ない」
戦禍はレバノンに広がり、ヒズボラの最高指導者ナスララ師の殺害には、1トン級爆弾が数十発使われた。レバノンで1千人以上が亡くなっていても「限定的作戦」と呼ばれ続ける。
「ガザをめぐるアメリカの状況を見ていると、民主党が掲げている『多様性』や『包摂性』の限界を感じてしまう。そこにパレスチナ人は含まれていないのか。イスラム教徒は排除されているのか」
平等な社会をどう実現するのか
三牧さんは、朝日地球会議のRe:Ronセッションで、女性のエンパワーメントやジェンダー平等の意味を改めて考えたいという。
「女性大統領の誕生は、それだけで社会を変えるわけではないし、女性のエンパワーメントにつながるわけでもない。黒人女性という、これまで社会で周縁化され、差別や暴力がもたらす痛みを知るはずの人が権力を握ることで、弱者の命が大切にされる政治の端緒になることを期待していたが、必ずしもそういう展開にはなっていない。むしろ対外的にハリス氏はますますタカ派の姿勢をとっている。すべての命が尊重される平等な社会はどう実現できるのか。アメリカ政治のいまを論じながら、考えたい」(聞き手・菅光、佐藤美鈴)
《略歴》みまき・せいこ 1981年生まれ。東京大学教養学部卒。専門はアメリカ政治外交史、国際関係論。高崎経済大学准教授などを経て2022年から同志社大学大学院准教授。著書に『戦争違法化運動の時代』(名古屋大学出版会)、『Z世代のアメリカ』(NHK出版)、共著に『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』(集英社)など。
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