【ブリュッセル=辻隆史】欧州人権裁判所(仏ストラスブール)は9日、スイス政府の不十分な気候変動対策が人権侵害に当たるとして同国の女性グループが起こしていた訴訟で原告の訴えを支持する判決を下した。人権裁が政府の気候変動対策に関する判断を示したのは初めて。
人権裁は46カ国が加盟する「欧州評議会」の関連組織だ。評議会には欧州の大国に加え、スイスや中東欧諸国など非欧州連合(EU)加盟国も多く参画する。評議会加盟国が批准した欧州人権条約は、生命や表現の自由に関する権利などを保護する。
条約に拘束される加盟国のうち少なくとも1カ国が権利を侵害していると考えられる場合、市民や法人は人権裁に訴えることができる。
今後、欧州各国の気候変動対策だけでなく、世界各地での気候変動に関連した訴訟に影響を与える可能性がある。
人権裁の判決には欧州評議会の加盟国内の決定を覆したり、国内の法律を無効にしたりする権限はない。ただ、欧州内外で同様の裁判が起こされた場合は今回の人権裁の判断を元に判決が下る可能性が出てくる。ロイター通信は9日、2023年末までに2500件以上の気候変動に関連する訴訟が起きていると伝えた。人権裁の判決を機に、さらに訴訟の増加が想定される。
今回の訴訟では、スイス政府が地球温暖化防止に向けた十分な対策を講じないことで同条約に違反したかどうかが検討された。女性グループはスイスが熱波対策を適切にとらず、住民が死亡するリスクが高まると主張していた。
判決では条約が定める「私生活と家族生活の尊重を受ける権利」が侵されたと判断した。気候変動が引き起こす悪影響から、原告の人命や幸福、生活の質が守られるよう保護される権利を有すると指摘した。
一方で人権裁は、ポルトガルの若者などによる類似の2つの訴えについては棄却した。
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