大学女子バスケで一躍有名になったケイトリン・クラーク㊥はナイキなどとNIL契約を結んでいた=Kirby Lee-USA TODAY Sports

【ワシントン=赤木俊介】米国の大学スポーツを統括する全米大学体育協会(NCAA)は23日、大学が所属する学生アスリートに対し、放映権などで得た収入を報酬として支払うことを認める方針を示した。これまで、大学による支払いは禁じられていた。実現すれば、米大学スポーツの「アマチュアリズム」が転換するきっかけになりそうだ。

米メディアによると、早ければ2025年秋季からレベニューシェア(収益分配)が可能となる。NCAAは今回、学生アスリートによる集団訴訟に対する和解案の一部として報酬の支払いを認める方針を示した。大学ごとに年間2000万ドル(およそ31億円)以上を分配する見込みで、NCAA1部のチームに所属する選手が支払いの対象となる。

NCAAは一部の学生アスリートから、長らく、放映権などで協会が得た収入を適切に分配しないことを批判されてきた。NCAAは報酬支払に加え、原告に対し今後10年間で27億5000万ドル以上の損害賠償を支払うほか、奨学金支援枠の規則も緩和する方針も示した。

学生アスリートは現在、放映権などから発生するNCAAの収益を報酬として受け取ることができない。NCAAは学生の本分は「勉強」であり、「教育に関係ない金銭」の受領を禁じてきた。だが、一方で、米大学スポーツはすでに一大ビジネスとなっており、実態との乖離が進んでいた。

21年には学生からの訴訟や州レベルの法整備などの圧力から、学生アスリートによる名前・画像・肖像権(NIL)の商業利用を認めた。広告の出演や、スポンサー契約などから発生するNIL報酬の規制が撤廃され、大学スポーツの商業化がじわり進んでいた。

2月には米労働関係法の施行機関である全米労働関係委員会(NLRB)が学生アスリートと、アスリートが所属する大学の間には「雇用関係」があると判断し、労働組合への加盟を認める動きもあった。

大学スポーツの収益は年々、拡大している。NCAAの財務報告書によると、22〜23年の会計年度に放映権料からくる収益は約9億4500万ドルだった。米調査会社ニールセンによると、24年4月のNCAA女子バスケットボール選手権の決勝戦は視聴者数が1890万人と米女子バスケ史上最多の視聴者数を記録した。

SNS(交流サイト)が追い風となり、学生アスリートのスター性もかつてないほどに高まった。ルイジアナ州立大学の体操選手、オリビア・ダンは動画投稿アプリTikTok(ティックトック)のフォロワー数が800万人にも上る。

アイオワ大学のスター選手として一躍有名になった女子バスケのケイトリン・クラークもインスタグラムのフォロワー数が240万人を超える。クラークは22年にナイキ、23年にはペプシコのスポーツ飲料「ゲータレード」と米保険大手のステートファームとNIL契約を結んだ。

こうした実態から、NCAAもついに放映権などで得る収入についても、学生アスリートへの分配を認めざるを得なくなった。

もっとも、学生スポーツはこれまで「アマチュアリズム」を掲げており、今後、課題も残る。NCAAの会長を務めるチャーリー・ベイカー氏は1月に開かれた連邦議会下院の公聴会で、学生アスリートと大学の雇用関係が認められれば学業の一環としてスポーツに参加する「学生アスリートの95%が不利益を被ることになる」と訴えた。

ベイカー氏は学生が参加する競技の多くは収益を上げることができないとも指摘した。大学スポーツの商業化が過度に進めば、収益にならないチームが廃部となったり、大学からオリンピックへ選手を供給する「パイプライン」が細くなってしまったりする懸念がある。

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