IHIエアロスペースは群馬県富岡市の生産拠点に4月から本社を置く(同社提供)

群馬県内に東京都内の企業が本社やその一部を移す動きが続いている。IHI子会社のIHIエアロスペースは4月から富岡市に本社を構える。2023年8月には仏ミシュランの日本法人、日本ミシュランタイヤが太田市を本社とした。地震や水害のリスクが低いとの評価から事業継続計画(BCP)を重視する企業を次々と引き寄せている。

IHIエアロスペースはロケットやジェットエンジン部品を開発する。富岡市内にある敷地面積約49万平方メートルという唯一の生産拠点(旧富岡事業所)に、東京都江東区から本社を移した。

全従業員約1000人のうち約950人は富岡で勤務し、研究開発や設計、生産、営業といったほぼ全ての機能がそろっていた。総従業員数は変わらず、都内の事業所では引き続き営業を担う。

同社の前身は戦前の中島飛行機(現SUBARU=スバル)の発動機事業。旧富岡事業所は同じ中島飛行機の流れをくむ日産自動車の宇宙航空部門が1998年に設けた。日産が2000年、石川島播磨重工業(現IHI)に事業譲渡し、08年に現社名となった。

同社は本社移転の検討を23年秋から本格化した。総務部の担当者は「(群馬は)新幹線や高速道路網などが整っており、取引先が多い首都圏に位置している。地震などの自然災害リスクも低い」と理由を説明する。

帝国データバンク群馬支店の調査によると、23年に県外から県内に転入した企業は25社だった。転出は16社で2年連続の転入超過だった。転入は東京都からが11社で最も多く、埼玉県からが5社で続いた。同支店も東京へのアクセスが良い割に地価が安く、災害が少ない点を移転拡大の背景とみる。

培われてきた製造業の厚みも魅力のようだ。日本ミシュランタイヤは本社を東京都新宿区から群馬県太田市の研究開発拠点に移した。主力のタイヤ開発や販売の効率化が狙いだが、太田がスバルの企業城下町として「製造業が集積している」(須藤元社長)という地の利を生かし、地場企業との連携にも力を入れる。

本社には「ミシュランAMアトリエ」がある。備品の金属用3Dプリンターは粉末状の金属にレーザー光を照射し、層を重ねながら溶かして固める「積層造形」によって従来加工では難しい造形が可能。これら先進設備を県内企業などに貸し出し協業につなげる。本社移転時に約20人が太田に転居し、波及効果ももたらす。

東京都千代田区に本社があるNTTは、22年に同県高崎市と京都市に機能を分散した。首都直下地震や津波などの大規模災害が起きても業務を継続できるようにする。眼鏡チェーン大手のジンズホールディングスも本社機能は東京都千代田区に置くが、24年4月中に創業の地である前橋市内にサテライトオフィスを設ける。

山本一太知事は3月28日の定例記者会見で「(トップセールスとして)東京の企業を回って営業をしてきたなかで、災害が少ないなどの点で群馬が評価されてきた」と強調し、さらなる企業誘致に意欲を示す。

(田原悠太郎)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。