北アルプスの登山道に現れたツキノワグマ=2022年8月撮影
◆具体策は自治体任せ?
「調査などはやりやすくなるかもしれない。ただ、現状では、何をどうするのか明確になっていない。国は予算は付けるけど、実際は各自治体が今後、どういうことをやるのかにかかっている。様子見だ」 こう語るのは、NPO法人「南知床・ヒグマ情報センター」前理事長の藤本靖氏。同センターのメンバーはこれまで多くのヒグマを捕獲してきた。「詰めなきゃいけないことはたくさんある。現場の話を聞いて何をやるかだろう。かけ声倒れにならなきゃいいけど」。地域の実情に合わせた施策が必要だと強調する。◆本州のツキノワグマと北海道のヒグマが対象
指定管理鳥獣になったのはニホンジカ、イノシシに続き3例目。ツキノワグマは九州で絶滅し、四国でも個体数が減っているため、本州のツキノワグマと北海道のヒグマが対象だ。 追加の理由は人的被害の急増。昨年度、クマによる人身被害は219人(うち6人死亡)で統計のある2006年度以降で最多。前年度から144人増えた。 中でも全国最多の秋田県では70人の負傷者が出た。人里への出没が多く、有害駆除の件数も増えた。県の推定生息数の中央値は4400頭だが、昨年度は上限の1582頭を上回る2327頭(4月末時点の速報値)を捕獲。県自然保護課の担当者は「捕獲圧をかけ過ぎると数の減少につながる。実態を把握し、適切に被害対策を講じて人とのすみ分けを図っていきたい」と話す。丹沢山地で猟をしていたグループの軽トラの荷台には「管理捕獲実施中」の文字と、シカ、イノシシのイラスト=2021年2月、神奈川県内で
◆生息数の減少を懸念
長年、フィールドワークを行ってきた日本ツキノワグマ研究所の米田一彦代表は「昨年度あれだけの被害が出た、単年度の理由があるはず。2、3年かけてその原因を調べてから追加しても遅くはなかった」と言い、性急に推し進められたと感じている。数を減らすことが一義的な目的となるのを危ぶみ、「一度、国の制度が変われば十数年は変わらないだろう。クマにどれだけの打撃になるのかを考えたのだろうか」と疑問を呈する。 クマはシカやイノシシと比べると繁殖力は低い。 石川県立大の大井徹特任教授(動物生態学)も「捕獲に依存した対策を取れば、クマの生息が危うくなる。被害軽減の効果がある場所を特定し、山奥では数を残さなくてはいけない」と「過剰捕獲」への警告を発する。やはり、実務を担う地方自治体の役割は大きいとし、「捕獲と保護のバランスが取れた政策のかじ取りが求められる。都道府県と市町村が連携して進めてほしい」と話す。 最終的な目的は人的被害を防ぎ、クマと人間が干渉せず暮らすことだ。大井氏は、緩衝帯となる里山を管理する政策も積極的に取り入れるべきだと訴える。「人間にとってクマがいては困る場所は、クマの居心地を悪くしなければ、またやってきて定着する。今回の政策転換を単に捕獲推進と捉えず、人里に誘引する原因を取り除く環境整備を同時に進めなくてはいけない」 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。