◆「本にして刑務所に届けませんか」と言われ
男性とは、刑務所のあり方を考える集会で出会った。妙な姿勢の良さや礼儀正しさ、身体のこわばり。少し言葉を交わしただけだったが、何となく「出所者の方かな」と感じた。 予感は的中。取材を重ね、昨年6月21~30日にかけて、東京新聞紙上で「ある受刑者と福祉」と題して6回連載した。その後、いくつかの出版社に声を掛けてもらったが、論創社の編集者からの「本にして無期刑受刑者が服役するL級刑務所に届けませんか」との誘いは初めてだった。社会福祉士の資格を持つ記者として、社会の役に立てるかもとお願いすることにした。無期懲役をテーマに執筆した「服罪-無期懲役判決を受けたある男の記録」(論創社)
以後、もう一度取材し直した。男性に取材をすることは、事件当時をもう一度生き直してもらうことを意味する。被害者を思い、つらく、苦しい取材が続いた。次のひと言に、1時間、数日、数週間待つことも。 少しずつ信頼関係を築き、男性に「少しでも世の中を変えたい。ぼくの言葉でそれができるなら、あなたに託したい」と言ってもらえたことは、短い記者人生を振り返った時のハイライトのひとつになると思う。◆「懲らしめ」から「立ち直り」の社会へ
書籍では、「塀の中」「無期懲役囚」などレッテル貼りにつながる表現は極力避けた。2部構成にし、1部は記者として男性の物語を刻み、2部は社会福祉士の視点で支援の現状を描いた。1部からでも2部からでも、司法福祉の現在地に触れられる内容にした。 そもそも死刑に次ぐ無期刑受刑者のあり方は、あまり議論されてこなかった。だが、無期刑受刑者の存在を考えることは、更生とは何かについて、最もその問いの解をつかむ場所にいざなわれる。この国の人権を語る上で、避けては通れない視点だと考えている。 2025年は改正刑法が施行され、「懲らしめ」から「立ち直り」へ、社会復帰を主眼にした更生支援にそのあり方は大きく変わる。書籍を機に、多くの人の心に風紋を残せたらと願う。(木原育子) ◇ <コラム・社会福祉士 × 新聞記者>社会福祉士と精神保健福祉士の資格をもつ記者が、福祉の現場を巡って、ふと感じたことや支援者らの思い、葛藤等々を伝えていくコラムです。社会の片隅で生きる誰かのつらさが、少しでも社会で包んでいけるように願って。
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