安倍晋三政権下の2013年から15年にかけて、生活保護費が大幅に削減された。 生活費にあたる生活扶助の基準額が最大約10%、平均6.5%も引き下げられた。削減額は年間約670億円にも上った。 「生活保護の基準額を引き下げたのは違法だ」「削り過ぎた金を支給してほしい」―。そんな訴えが全国各地で起きたのも当然といえる。これまで地裁と高裁の判決では、原告側が18勝14敗である。 国側の「完全敗訴」といえるのが昨年11月の名古屋高裁判決だった。自治体に保護費削減の処分取り消しを命じるだけでなく、原告の精神的苦痛を認めて、1人あたり1万円の国家賠償を命じた。画期的な判断だった。 削減率を決めた厚生労働省に対して「重大な過失がある」「著しく合理性を欠き、裁量権を逸脱している」などと判決は厳しい言葉を連ねた。 「物価偽装」と原告側が呼ぶほど、同省は特異な計算方法で削減率を決めたからだ。08年から11年にかけて、総務省の消費者物価指数(CPI)はマイナス2.35%にすぎなかったのに、厚労省は生活扶助相当CPIの下落率を4.78%とした。極めて異常な数値といえる。 4.78%のうち約3%分がパソコンなど高額な電気製品の影響分だった。生活保護世帯とは縁遠い商品で計算していたのだ。 「ゆがみ調整」という調整分についても同省は秘密裏に「2分の1処理」という奇妙な計算処理をした。物価指数に詳しい専門家の意見も全く反映してはいなかった。 それにしても、なぜ厚労省はこんな独走をしたのだろうか。実は背景に「政治の力」があったことをいくつかの裁判所が認めている。例えば今年2月の津地裁判決は次のように述べている。 「厚労省は自民党が発表していた生活保護費10%削減の方針、選挙公約に忖度し、早い時期から生活扶助基準を大幅に引き下げるべく内々に検討していた」 12年に自民党は政権復帰し、新しい厚労相は就任記者会見で、生活保護の給付水準の引き下げを断行すると発言してもいる。 「生活保護バッシングに表れた国民の不公平感が醸成されていたことを背景に、たとえ専門的知見に反してでも、早急に生活扶助基準を引き下げるという政治的方針を実現しようとしたものとみるほかはない」(津地裁) 何たることか。厚労省の改定は「自民党への忖度」だったのだ。同党の選挙公約に盛られた削減率に近づけようとした数字いじりなのだ。 生活保護法は生存権を定めた憲法の理念に基づく。この理念に背き、底辺の暮らしを直撃する弱い者いじめの政策は許せまい。司法こそ「政治への忖度」にすぎない厚労省の詐欺的な計算法を正すべきである。これも統計不正ではないか。
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