過激な性描写や残虐性があるなどとして18歳未満への販売を禁止する図書について、東京都がこれまでホームページなど対外的な広報で使っている「不健全図書類」の表記をやめる。根拠となる条例名に沿って「青少年の健全な育成に関する条例第8条の規定による図書類」などと表記する方針。関係者への取材で分かった。(原田遼)

◆誤解招く「不健全」表現、見直し求める声が続いてきた

 都は9日にも指定図書を審査する審議会で表記の変更を報告する。関係者によると、表記が変わるのは指定図書を閲覧できるホームページや都の公報、出版社への通知文書など対外的な広報物のみ。条例改正はせず、条文に「不健全図書類」の文言は残る。

東京都のホームページで広報される不健全図書の指定。今後は「不健全」の表記は使われない

 「不健全」の表記を巡っては「成人にとっても良くないものと誤解される」などとして3月、「はじめの一歩」の森川ジョージさん、「名探偵コナン」の青山剛昌さんら日本漫画家協会の有志112人が都議会全会派に見直しを求める要望書を送っていた。  「不健全図書類」に指定されると、18歳未満への販売禁止に加え、店頭でほかの図書と陳列を分けることや、ビニールで包装することが義務付けられる。成人向けの販売は許されるが、大手通販サイトで取り扱われなくなるケースもあり、漫画界からは「事実上の発行禁止」と批判が出ていた。作家の活動や出版社の経営への影響が大きいため、表現の自由の自主規制につながるとの指摘もあった。  都は名称を「適切なもの」として変更を否定していたが、都議会立憲民主党が4月、名称変更を盛り込んだ条例改正を目指す方針を明らかにした。都側は6月の都議会定例会で「条例の趣旨が誤解なく、より明確に伝わるように検討する」と方針変更を示した。

◆署名集めた森川ジョージさん「10年かかると思っていた」

 「約60年間、微動だにしなかった山が動きました」。「不健全図書」の表記が都の広報物から撤廃されることを受け、日本漫画家協会常務理事の森川ジョージさんはX(旧ツイッター)に喜びを投稿した。  条例は1964年に施行。2010年には当時の石原慎太郎知事が近親相姦(そうかん)など指定の適用要件を強め、「あしたのジョー」のちばてつやさんら著名漫画家が「表現の自由が侵害されるおそれがある」と抗議活動を展開した。  森川さんは「条例を変えることは無理」と感じていたが、都議会関係者から「名称変更なら手続きも少ない」と助言され、2年前から実現を目指して活動を本格化。都議会への要望書提出を漫画家仲間に働きかけ、112人の署名を集めた。東京新聞の取材に「名称変更の実現まで10年かかると思っていた。仲間や議員さんのおかげ」と感謝した。  他の道府県でも「有害図書」の名称で、同様の規制がされている。森川さんは「不健全や有害の指定を受けると、漫画家は生活の糧が失われる。東京が変わることで全国に波及してほしい」と話した。 

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