突出した才能を持つ「ギフテッド」と呼ばれる子どもへの教育をテーマにした国際会議「アジア太平洋ギフテッド教育研究大会」が、17〜20日に香川大学(高松市)で開かれた。世界で研究が進むなか、日本の現在地はどこにあるのか。大会実行委員長を務めた愛媛大学の隅田学教授に聞いた。

隅田学教授は日本の教育はバージョンアップが必要と説く

――ギフテッドの定義とはなんでしょうか。

「国により違うが、ギフテッドの定義を緩やかにして子どもに多様な機会を与え、才能を見つけ伸ばそうというのが世界のトレンドだ。日本の文部科学省はギフテッドという言葉を使わない。ラベルをはることで子どもが不利益を被る恐れもあり、明確な線引きをしなかったことは理解できる」

――ギフテッド教育は才能を社会に生かすため、もしくは子どもの幸せのためというのが目的でしょうか。

「両方あるが偏りすぎてはいけない。どちらに重点を置くかは国・地域や時代によって変わる。韓国は2000年に英才教育振興法を制定した。国益のために優秀な人材を育てる狙いだったが、今は変わってきている」

「先進国は今では知能指数(IQ)が130を超える子どもで選抜クラスをつくるようなことはしていない。子どもを中心に置き、能力を多面的に見るのが重要な視点だ」

――日本のギフテッド教育の現在地はどのようになっていますか。

「外国からみれば日本は謎のベールに包まれた国だろう。才能教育の法律や制度がないのに教育レベルは高いという点についてよく問われる。一方で能力が高い子どもが埋もれているのではないかともみられているようだ」

「日本は先生が時間をかけて子どもたちの成績を上げてきたが、それは限界を迎えバージョンアップが必要だ。日本に欠けていた才能教育が有用である可能性がある。文科省の有識者会議は22年に『特定分野に特異な才能のある児童生徒』に対する指導・支援について取りまとめ、義務教育で授業が始まった。緒に就いたばかりだ」

香川大で開かれた「アジア太平洋ギフテッド教育研究大会」=共同

――才能はどのように見極めるのでしょう。

「それが一番難しい。愛媛大学では子どもの才能開花を支援する『キッズアカデミア』を運営している。10年のスタート時は行動チェックで選んでいたが、今はやめた。(成績などが)8番目と9番目を比べて、9番目の子どもは才能がないのかといえばそうではない。活動を通じて緩やかに自然選択するシステムに変えた」

――日本が学ぶべき国・地域はありますか。

「特定の国をお手本とするより、今回の国際会議のような機会に世界のベストプラクティスを知ることが重要だ。日本として何ができるかを考える材料にするのがよいと考えている」

――日本の可能性をどのようにみていますか。

「日本は幅広く優秀な人材を育ててきた。アドバンテージを生かしつつ、その子らしさや、その子が輝くにはどうすればよいかを一緒に考え、多様な才能を開花させる教育を取り入れることが大切だ。実現できれば(ギフテッド教育における成果で)逆転できるのではないか」

(聞き手は鈴木壮太郎)

香川で開催、アジアから参加も多く


香川大学(高松市)で開かれた「アジア太平洋ギフテッド教育研究大会」には27の国と地域から400人超が参加した。香川開催の意義を大会副実行委員長の林敏浩教授に聞いた。
林敏浩教授は香川開催の手応えを語る
――日本で初開催となった大会が香川で開催された経緯は。
「アジアからの参加者が多いので、アジアとの直行便が多い高松空港があるアクセスのよさがひとつだ。日本国内からも多くの人に来てもらいたかったこともある」
「学会は東京、大阪、京都での開催が多いが、四国に行く機会がないという話をよく聞く。香川ならうどんも栗林公園も楽しめるので喜んで来てもらえると思った」
――外国からの参加者の反応はどうでしたか。
「国際会議はホテルやコンベンション施設が会場になることが多く、大学キャンパスでの開催は久しぶりで新鮮だったという声があった。『高松はピースフルだ』とも言われた。人びとの物腰が柔らかく優しいということだろう。感謝のメールも届いている」

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