夏休みスタート早々、釣りやマリンスポーツが楽しめる伊豆諸島の式根島に向かった東海汽船(東京)の高速ジェット船が、故障のため一時漂流した。えい航され、伊豆大島に着いたのは出発から約22時間後だった。島国の日本はジェット船の運航が盛ん。ただ、今回の船を含め、多くが老朽化に直面する。今後もトラブルが起きる恐れはないだろうか。(曽田晋太郎)

◆水中翼で浮上、時速83キロ

 ジェット船は、米航空機大手ボーイング社が軍用技術を転用し、高速旅客船として開発。「ジェットフォイル」と名付けた。その名はボーイング社から1987年に製造・販売権を得た川崎重工業の登録商標となっている。世界で現在製造しているのは川崎重工だけだ。

海上保安庁の巡視船にえい航される東海汽船の高速ジェット船「セブンアイランド愛」=千葉県の房総半島沖で(本社ヘリ「あさづる」から、平野皓士朗撮影)

 同社のジェット船はガスタービンエンジンで駆動する「ウオータージェット推進機」が、1分間に180トンもの海水を吸い込み、後方に噴射。船体の前後にある水中翼に発生する揚力で海面上に飛び上がる。最高時速は83キロになる。別名「海の飛行機」だ。

◆油圧系のトラブルでカジが利かず

 国土交通省や川崎重工によると、日本では18隻のジェット船が運航されている。国交省の担当者は「世界での正確な運航総数は分からないが、主に日本で運航されているだろう」と話す。  東海汽船によると、今回故障したジェット船「セブンアイランド愛」(総トン数約280トン、全長約27メートル)は、24日午前7時45分に東京の竹芝桟橋を出航したが、房総半島沖で水中翼が油圧系のトラブルのため正常に動かなくなり、かじが利かなくなった。  通報を受けた第3管区海上保安本部の巡視船やタグボートがロープでえい航。当初24日中に伊豆大島に着く予定だったが、ロープが船のプロペラに巻き込まれたり、海上が荒れていたりした影響で作業が難航。到着は25日午前5時45分ごろにずれ込んだ。東海汽船の担当者は「故障の原因は調査中」としている。

◆漂流した船は1980年建造のベテラン

 ジェット船を巡っては2019年3月、新潟県佐渡島沖を航行していた佐渡汽船の船が、クジラとみられる物体と衝突。80人が負傷する事故もあった。

一時漂流した東海汽船の高速ジェット船「セブンアイランド愛」=平野皓士朗撮影

 国交省の担当者によると、運航中の18隻は、建造からの期間が平均で30年超という。東海汽船によると、今回故障した船は1980年に造られたボーイング社製で、2002年に東海汽船で就航したベテラン船だった。同社の担当者は「船は定期的にメンテナンスしていた」と説明する。  全般的に老朽化が進んでいるものの、ジェット船の新造費用は数十億円ともいわれ、簡単に代替わりできない。

◆高い建造費、新規導入にはデメリットがちらついて

 東海大の山田吉彦教授(海洋政策)は「建造費が高価な上、燃費の悪さや、大型海洋生物との衝突事故のリスクなどもあるため、新たな船を導入する会社は少ない」と解説する。  ジェット船がこれまで故障した例は少ないと前置きしつつ「しっかりメンテナンスしていたとしても、金属疲労や経年劣化で目に見えない傷があってもおかしくなく、老朽化の影響による故障が起こる可能性はある」と指摘。ベテラン船が多い中、故障を防ぐためには「検査体制を整え、確認することに尽きる」と強調する。  また「離島の衰退につながるため、国はジェット船がなくなることへの危機感は強い。新造が少ない中で、どう技術を継承し、航路を維持していくかも課題になる」と話した。 

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