東京・新宿歌舞伎町にやって来る若者たち「トー横キッズ」の有志が、夢や思いを発信する「トー横新聞」の発行を目指している。市販薬の過剰摂取「オーバードーズ(OD)」や性被害などの問題が取り沙汰される中、本音を明かし、社会とつながろうとしている。(中村真暁)

 トー横キッズ 新宿歌舞伎町の複合商業施設「新宿東宝ビル」周辺の広場や路地に集まる若者たち。家庭や学校で居場所を見つけられないなどの理由で、交流サイト(SNS)投稿などを通じて都内外から集まる。薬物摂取や性被害、飲酒喫煙など犯罪や非行につながるケースも少なくない。

◆創刊号の目玉企画は都議との対談

 「トー横の悪い大人は、子どもの声をよく聞いてくれる。本気で現状を変えたいなら、行政も政治家も現地に足を運ぶべきでは」。4月上旬、都議会議事堂の一室に中高校生ら10人ほどの声が響き渡った。都議らとの対談は、創刊号で掲載する目玉企画だ。

都議らと対談するトー横キッズたち=5日、東京都新宿区で

 「学校で自傷行為がバレても、もうしないでと責められるのがメインだった。本当はなぜやったかを解決しないとなくならない」「親や学校に言いたいことを伝えても、否定される。受け入れてもらえず、もういいやってなっちゃう」  議員らは「次はトー横で、もっと聞かせて」と身を乗り出した。  「死にたい」と漏らす子を必死に止めたり、いじめや虐待といったつらい境遇の仲間を支えたり―。新聞は、そんな若者たちが発案した。公益社団法人「日本駆け込み寺」(新宿区)が支援し、夏にも創刊。半年ごとの発行で動画や文章でネット配信し、紙面は教育委員会や学校にも送る。  駆け込み寺代表理事・天野将典(まさのり)さん(46)は「トー横で人と関わり、夢や希望を持った子はたくさんいる。子どもたちの思いを大人に知ってもらいたい」と話す。30日まで、新聞作成費250万円を、インターネットによるクラウドファンディングで募っている。

◆焼き肉会、新聞を通して、同じ境遇の仲間に伝えたい思い

 「トー横新聞」編集メンバーで大学2年の種村豊さん(20)は、いじめられて孤立し、居場所がなくなった時、トー横で助けられた。同じ境遇の仲間に伝えたい。「僕たちに未来がない、なんて詭弁(きべん)でしかない。『何をしても無駄』を打ち破りたい」って。

新宿東宝ビル近くの広場に立つ種村豊さん

 夕方、若者たちが歌舞伎町の広場に集まる。仲間同士でしゃべったり、ダンス動画を撮影したり、持ってきたチキンを食べて回したり。愛知や大阪などから来た若者も少なくない。  「ガス抜きできる場が必要だと思う」。種村さんは1月、若者支援団体に訴えた。何をすべきか問われ、思い付いたのは焼き肉を楽しむ会。「貧しい家庭の子が多く、皆肉を食べる経験が少なかった」。複数の支援団体や企業の協力で開いた歌舞伎町での焼き肉会には、125人が参加した。  首都圏出身で、3歳ごろから母子家庭。人との距離の取り方が分からず、友達ができなかった。中学でいじめに遭い、高校3年の冬休みに動画配信サイトで見つけたトー横へ。若者たちとは、すぐに打ち解けた。「心の形が同じ」。しゃべり、ご飯を食べ、朝まで過ごした。家族に叱られても、隠れて通い続けた。

◆トー横の友達に励まされ「素の自分でいい」と発奮

 関西学院大へ進学したが居場所はなく、半年ほどで休学。再び通ったトー横の友達に「自分を偽っても意味ないよ」と励まされた。落ち込むたびに思い出し、「素の自分でいい」と奮い立った。  皆、未来を諦めていることが気になる。ODやリストカット、セックスにはまるのは「何をしても無駄と自分にレッテルを貼るから。未来がないからこそ、無敵になれている」。  「若者が大人に不信感を持つのは、僕らについて何も知らないから。ODで死にかけるけど、生かされてもいる」。支援があるとすれば、「それくらい沼らせられる(心に届けられる)ものだ」と訴える。  「僕なんてポンコツ側の人間。それでも焼き肉会ができた」と種村さん。駆け込み寺などの協力を得ながら、トー横新聞やイベント開催で、何かをしたい気持ちを持ってもらいたいと考えている。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。