2007年の日本ダービーを制したウオッカなど数々の名馬を育て上げた、日本中央競馬会(JRA)の元調教師、角居(すみい)勝彦さん(60)は今、石川県珠洲市で引退競走馬の支援施設を運営する。能登半島地震では甚大な被害を受けたが、再出発に向けて復旧作業を急ピッチで進めている。(井上靖史)

珠洲ホースパークで放牧中の馬を世話する角居勝彦さん=15日、石川県珠洲市蛸島町で(星野大輔撮影)

◆少なくない殺処分に心痛めてきた

 工事や災害ごみの仕分けをする重機音が響く中、元競走馬6頭とポニーがのんびりと過ごしていた。菊花賞に出走したカウディーリョなど、17歳までの馬がいる。  引退競走馬と触れ合える「珠洲ホースパーク」。金沢市出身の角居さんが馬を通して能登半島を活性化させたいと開設した。5度の最多賞金獲得調教師賞を獲得するなど輝かしい成績を収めてきた名伯楽は、種牡馬や繁殖牝馬になれる引退馬は一握りで、殺処分も少なくないことに心を痛めてきたという。  引退馬が穏やかに余生を送る場はないか。2013年に引退馬の支援や、馬とのコミュニケーションを心の病の治療に生かすホースセラピーを総合的に運営する「ホースコミュニティ」を設立した。

珠洲ホースパークで放牧中の馬を世話する角居勝彦さん=15日、石川県珠洲市蛸島町で(星野大輔撮影)

◆オープン5カ月で震災、地割れ、断水も馬たちは無事

 祖父が珠洲市、祖母は輪島市出身。奥能登にルーツがある角居さんは「限界集落になりつつある地域で、馬を生かしたイベントを通じて活性化できないか」と引退競走馬との体験施設を構想した。定年まで10年以上残してJRAを2021年に引退した後、珠洲市で出会った起業家の足袋抜(たびぬき)豪さん(46)と昨年8月、ホースパークを開設した。  地震の発生は、その5カ月後だった。厩舎(きゅうしゃ)が一部破損し、駐車場の地面が地割れ。馬は無事だったが、見学者の受け入れは中止、断水も長期化し、一時は雪を溶かしたり、川にくみに行ったりしてしのいできた。

◆20日にイベント「思い出に残る楽しい体験を」

 その後、NPOの協力で井戸を掘り、水が確保できるようになった。下水も壊れたが、微生物分解できるトイレを敷設した。パークの本格再開時期は未定だがまずは20日、地震後初のイベントを実施し、再出発へと歩み出すことにした。  イベントは認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」(広島県)が主催する「能登復興祭」。馬との触れ合いや、炊き出し、簡易住宅へのお絵描きなどを予定する。「地震後、特に子どもらの人口流出が加速していると聞く。悪いイメージばかりではない、思い出に残る楽しい体験をこの地域でしてほしい」と角居さんは語る。午前9時~午後3時。希望者は直接会場へ。 

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