周辺海域を取り巻く情勢が厳しさを増しているとして、政府が海上保安庁の定員を増やしているなか、領海警備や海難救助の担い手不足が懸念されている。背景には、転勤や離島勤務が多いといった仕事の特殊性もあり、海保は働き方改革などに力を入れている。

 17日の定例会見で瀬口良夫長官は、「少子化が進むなか、人材確保は重要な課題。全庁一丸となって取り組んでいく」と話した。

 海上保安官になるためには、海上保安学校(京都府舞鶴市)または海上保安大学校(広島県呉市)を卒業するという二つのルートがある。

 だが、海上保安学校の受験倍率は2021年の3・9倍から24年は2・7倍に。幹部を養成する海上保安大学校も3・6倍から2・7倍に下がっている。さらに離職者も19年度は252人だったのが、23年度には386人と増加した。

 海上保安官は国境を守るため、離島での勤務や転勤も多い。また、船上の勤務は約10日間に及ぶこともあるなど、拘束時間が長いことも人気低下の理由という。

 船の資格や経験も必要なことから未経験者がすぐには活躍できない事情もあり、海上保安学校の受験資格を20年に、高校卒業後5年から12年に延長。巡視船に個室を設けたり、WiFiが使える船を増やしたりするなど環境改善を進めている。

 5月には海上保安庁の業務の状況を伝えるため年1回発行されている「海上保安レポート」を大幅に改訂して発売した。海上保安官の声や柔軟な働き方、幅広い職種にフォーカスした。

 政府は毎年、当初予算を1千億円程度ずつ増やし、27年度には22年度の1・4倍となる約3200億円とすることを決定。職員の定員数も毎年約100~約250人ずつ増やしており、24年度は1万4788人だ。

 海保幹部は「人手不足が深刻化すれば、将来的に領海警備や海難救助といった海上保安業務に支障が出る恐れがある。そうならないよう取り組まなければならない」と話している。(角詠之、東郷隆)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。