名古屋出入国在留管理局で2021年3月に亡くなったスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)を巡る国賠訴訟の弁論が10日、名古屋地裁であった。国側は、遺族側から前回指摘された尿検査をめぐる主張の以前との食い違いに対し、医師の診療方針は正当であり議論の飛躍はないなどと釈明した。

 問題になったのは「飢餓状態」を示唆していた死亡19日前の尿検査結果。国側は5月の前回弁論で、入管側の医師が結果などを「総合的に考慮」し、精神科での診療を選択したと推察されると主張。遺族側は「医師が結果を把握したか記憶は定かではない」とする国側の過去の説明と一貫しないと指摘していた。

 国側は今回、医師は消化器検査で異常がなかったことなどから精神的な問題を心配して受診方針を選んだとし、当時の過程に問題はないと推察される、などと釈明した。

 医師の尿検査結果の認識の有無について遺族側弁護士から問われると、国側代理人は「イエスでもノーでもない。その事実があると推察される」などと述べた。

 また、国側はウィシュマさんの死因などの特定は困難であり、入管側の対応と死亡の間に因果関係は認められないなどとして、国側に責任はないと主張した。その上で死に至る具体的な経緯や死因を争点とし、入管側の違法性の有無を検討すべきと提案した。

 これに対し遺族側は、死因は「低栄養」と「脱水」だと指摘し、収容中のウィシュマさんに必要な医療対応をしなかった入管側に責任があると重ねて反論した。

 ウィシュマさんは21年3月4日に外部病院の精神科を受診し、2日後に死亡した。ウィシュマさんの妹・ポールニマさん(30)は法廷で「姉の死因ははっきりしている。なぜ国は認めないのでしょうか」などと訴えた。(高橋俊成)

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