農業などの人手不足を補おうと、埼玉県狭山市は今年度から、市職員が勤務時間外に副業として地場産業を手伝える制度の運用を始めた。地域貢献のほかに市職員が実際の現場を身をもって学ぶ目的もあるという。

 よく晴れた土曜日の早朝。狭山市青柳のエダマメ畑に市職員3人の姿があった。

 「根元を持って、一気に引き抜いて。そんなに力はいりません」

 農業歴約30年という諸口秀敏さん(54)が語りかけると、3人がうなずいた。

 普段は市秘書課に勤める高野伊紗璃(いさり)さん(26)は地元出身だが、エダマメがなっているところを見たことがなかったという。「選別する必要がないので、意外にやりやすいです」。汗をぬぐいながら、次々に茎をつかんで引き抜いていった。

 狭山市付近のエダマメの収穫は、ちょうどピークを迎えている。

 諸口さんが作るのは茶豆の風味がある「神風香(かみふうか)」。早生(わせ)品種で実が小ぶりのため、機械で収穫できない。一方で「一番おいしい時は3日間くらい」(諸口さん)というほど鮮度が大切なため、一気に収穫する必要がある。

 短期間に多くの人手がほしいという諸口さんは「エダマメ作りでは、収穫が一番大変。本当に助かる」と語った。

 公務員の副業は法令で制限されているが、狭山市は今年2月、地域貢献活動に関する内規を策定した。勤務時間外の活動や合計時間が週8時間以下、月30時間以下などの条件付きで副業ができるようにした。

 対象は農業に限らず、スポーツや文化活動の指導、通訳なども含まれる。市役所の担当課が市民からのニーズを把握したうえで、許可制で認めるという。

 吉田敦副市長は「ボランティアとしてはこれまでも(地域貢献活動を)やっていたが、副業として報酬を受け取るとより責任感がうまれる」と制度化の意義を説明する。

 そのうえで「人手不足の解消という意味もあるが、市の職員側にとってもこの体験で培った人間関係が将来、別の部署で役立つことがある」と双方のメリットを狙っていると強調した。(深津慶造)

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