コジイの直径を測る研究者(2017年11月撮影)=熊本県水俣市で、広島大・山田俊弘教授提供

 昨日行った森に今日行っても、その変化に気づくことは難しいかもしれません。森は私たちの目から見ると、ゆったり時間が流れているように感じます。しかし、長い時間をかけて見ると大きな変化が起こっていました。広島大、北海道大、信州大、森林総合研究所などのチームは、半世紀にわたって森を観察した研究成果を発表しました。  観察の舞台となったのは、ドングリの実をつけるコジイ(ブナ科)が主に生えている森です。1966年から2015年までの49年間、熊本県水俣市の国有林を2年に1度訪れ、木の本数を数えて幹の直径を測定しました。総計で研究者207人が参加しました。その結果、コジイの本数は当初の194本から59本まで3割に減ったことが分かりました。多くの木が1991年の台風19号(通称・リンゴ台風)の強風にあおられ、なぎ倒されて枯れて死んでしまったことが大きかったといいます。  木の高さは直径と比例関係にあります。直径が25センチ以上を「高い木」、10~25センチの「少し高い木」、10センチ以下を「低い木」と分類して変化の傾向を調べました。観察を始めた66年時点では、高い木は32本、少し高い木は150本、低い木は12本でした。高い木は、高さ約20メートルにある森林の最上層「林冠(りんかん)」に達し、日光を十分に浴びていました。一方、低い木は、高い木の陰になって日光が十分に当たらず、リンゴ台風の前に全て枯れました。  この台風から約10年後、新しい木が生え始めました。台風は、木を枯らすという危険だけでなく、生き残った木の成長や、新しい木が生える世代交代のきっかけでもあったのです。  2015年には、高い木は18本、少し高い木は17本、低い木は24本になりました。高い木のうち、1966年の高い木で生き残ったのは2本だけで、残りは少し高い木が成長したものでした。チーム代表で広島大総合科学部長の山田俊弘教授(植物生態学)は、木の生存競争を駅伝に例えます。「成長するチャンスを生かすには、リンゴ台風の前の大きさが重要だったといえる。途中でトップである必要はないが、生き残るにはトップ集団に食らいついておかないといけない」と話します。  山田さんは、リンゴ台風と同じ91年に研究チームに入り、現在も森の観察を続けています。現在は54歳ですが「先輩研究者から連綿と続くバトンを引き継ぎたい」と研究のさらなる展開を願っています。 (増井のぞみ)


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