石川県珠洲(すず)市飯田町で120年続いた衣料品店「衣料ストアーサカシタ」の代表、坂下重雄さん(77)は能登半島地震で崩れた店舗の下敷きになり、約17時間生き埋めになった。救出された後、営業を再開するかどうか悩み続けたが、5月28日限りでの閉店を決めた。「本当は続けたい」と打ち明けつつ「今までのお礼のあいさつもしながら楽しく終われれば」と望んでいる。(上井啓太郎)

◆1月の地震で築80年の衣料品店は倒壊 

倒壊した店舗を見つめる坂下重雄さん(左)と久美子さん=6日、石川県珠洲市飯田町で

 明治30年代、重雄さんの祖父重太郎さんと祖母キクさんが雑貨店として始めた。父重吉さん、母キユさんを経て重雄さんが継ぎ、半世紀前から妻の久美子さん(76)と二人三脚で営んできた。10年前には、100年以上続いた企業として商工会議所から表彰も受けた。  洋服や肌着、寝具などを売る「お客さんと話し、買い物を楽しんでもらうのが特徴」の店だ。2021年に台風で外壁のタイルの一部が壊れたが、改装して店を続けることを決意。外壁をトタンの覆いに替え、シャッターも新調した。  元日は店の2階で、こたつに入り年賀状を整理していた。激しい揺れでとっさにこたつの中にもぐった。天井が落ちたのが分かり、身動きがとれない。一瞬意識を失ったが、手元にあったスマートフォンで家族と連絡が取れ、2日午前9時に消防隊員に助け出された。寝返りも打てない状況だったといい、助け出された直後は「歩くのもやっとだった」と振り返る。  築80年の店舗は倒壊。築50年の事務所部分はかろうじて倒壊を免れたが、避難所で1週間ほど考えた上で「続けるとなると、かなりの投資が必要。後継者もいない。ここでけりをつけるかな」と閉店を決めた。これまでの感謝を込めて5月13日から「閉店セール」を開催することを決め、看板やポップの作成などの準備を進めてきた。

自身が埋まった隙間を指し示す坂下重雄さん=石川県珠洲市飯田町で

 セールは近くの「ギフト館イマイ」を会場として借り、店舗から取り出した洋服や肌着を割引して売る。久美子さんは「こんな形でやめるのはさびしい」と残念がる。重雄さんは「最後のご奉仕としてお客さんにも喜んでほしい」と願い、「最終日はやっぱり感極まるのではと思いますね」と語った。セールは午前9時半~午後5時で、毎週水曜日は休み。  ◇  ◇

◆珠洲では33社が廃業、7割は建物が倒壊

 珠洲市内では地震後、廃業する事業所が相次いでいる。珠洲商工会議所は5月7日時点で33社の廃業を把握。約7割は建物が倒壊しているという。現在休業している事業者のうち、15社も廃業を予定している。  廃業した経営者は70代が多く、袖良暢(そでよしのぶ)事務局長は「補助金で事業所を直しても、自己負担もある。そこまでするか、という選択になってしまう」と説明した。  一部の事業者からは「事業を再開したいが、地域が今後どうなっていくか情報がない」と不安の声が出ている。袖さんは「各地域の復興のイメージを、早めに示すことが大事になってくる」と話した。 

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