ひきこもり状態の人やその家族らを支える拠点として、東京都江戸川区が開いた「駄菓子屋居場所よりみち屋」では開設から1年3ヵ月超で、駄菓子の販売や接客などの就労を体験した3人が関連企業などに就職した。今も20〜30代の3人が就職を目指し、働く体験を積む。行政と企業が連携して、新たな一歩を後押しする。(押川恵理子)

地域住民らと談笑する石川玲子店長(左奥)

 昨年1月末にオープンした「よりみち屋」は、都営新宿線瑞江駅そばのマンション1階にある。ガラス扉を開けると50平方メートルほどの店に駄菓子が並び、奥の交流スペースではおしゃべりやボードゲームを楽しめる。ひきこもり状態だった人も気軽に立ち寄れる場になっていて、就職した後、近況報告を兼ねて顔を出す人もいる。

◆交流スペースに通い「気持ちが楽に」

 「働きたいけれど、自分に何ができるかが分からず悩んでいた」。昨年11月末から就労体験を続ける20代男性は、経済的な事情などで専門学校を中退した後、8カ月ほどひきこもった時期がある。当時は暗い自分を見せたくなくて友人との連絡を絶ち、昼夜逆転した生活を送った。  昨年夏、顔見知りの区職員から「よりみち屋」を教えられ、外に出るきっかけとなった。交流スペースに通ううち「気持ちが楽になり、ここで頑張ってみたい」と思うように。週1回から体験を始め、今は週3回通う。清掃やパソコン入力、接客、レジ、品出し、イベント準備などを経験し「自信がついた。就職を目指したい」と前向きだ。  体験の対象は、区のひきこもり相談支援員に相談している区民で、1日3時間、週9時間を上限に最長6カ月。働いた分の賃金(時給換算1113円)が支払われる。1日15分という短時間から働けるのが特徴で、社会福祉士や、ひきこもり経験のあるスタッフらが支える。

地域住民らと談笑する石川玲子店長(左奥)

◆「行政に相談したことはない」が6割

 本人や家族の話を聞き、行政や専門機関の相談・支援につなげることもある。運営委託先の企業を設立した地元の医療法人社団「しろひげ在宅診療所」職員で、よりみち屋の石川玲子店長(40)が話す。「ここは失敗してもいい場所。福祉制度のはざまで支援を受けられない人たちを救いたい」  区の2021年度の調査では、区内でひきこもり状態の人は7919人。行政などに「相談したことはない」との回答が62%、家族では45%に上った。居場所や短時間でも働ける場を求める声もあったといい「よりみち屋」を開いた区の担当者は「就労を希望する人たちに役立っているようだ」と語る。  ◇  ◇

◆住む地域によって支援に格差

 ひきこもり状態の人は内閣府の推計で、生産年齢の15~64歳で146万人、50人に1人に上る。長期のひきこもりで80代の親と50代の子が孤立する「8050問題」も深刻化。江戸川区のようにひきこもりに特化した事業を進める自治体はまだ限られ、支援の地域間格差が大きい。  NPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」(東京)が1~3月、ひきこもりの本人(経験者を含む)と家族を対象に調査し、本人の8割以上、家族の7割以上が支援を必要としていた。一方で、支援を受けている人は3割だった。厚生労働省によると、ひきこもりに特化した支援事業を進めている市区町村は2023年度に245カ所で、全体の14%にとどまる。  同会副理事長でジャーナリストの池上正樹さんは「住む地域によって受けられる支援に格差があり、不平等な状況」と話す。行政に相談しても、門前払いや担当部署の押し付け合いに遭ったとの声もあるという。背景には、対応できる専門人材の不足がある。「支援の仕方が分からない」という悩みが、自治体職員から池上さんに寄せられる。  厚労省は本年度にも自治体職員向けに支援のポイントをまとめた手引を配る予定で、担当者は「まずは自治体の相談窓口を明確にし、支援を拡充させたい」と話す。支援体制の強化を目指す議員立法の動きもあり、相談支援や専門人材の確保などを盛り込んだ骨子案を、自民党の議員連盟が示した。 

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