小学6年生でお菓子工房の店長になった、みいちゃん。家族以外の人と話せなくなり、体も動かなくなる不安症がある。そんなみいちゃんに寄り添っている母親の杉之原千里さん(51)=滋賀県近江八幡市=が、子育てを通じて感じたことをつづった「みいちゃんのお菓子工房 12歳の店長兼パティシエ誕生~子育てのアンラーニング~」を出版した。

 みいちゃんは杉之原さんの次女で特別支援学校高等部2年のみずきさん(16)。小学校に入学する前に、自閉スペクトラム症、選択性かん黙と診断された。自宅以外での会話、移動、飲食が困難で、給食は食べられなかった。学校が好きだったものの、4年生の1学期から学校に行きづらくなっていった。

 以前、ほかの子どもの不登校を経験していた杉之原さんは、義務教育といわれる学校生活の時間がみいちゃんにとって「自由になれない時間」と気づいた。自分のための自由な時間を取り戻してあげようと考えた。

 社会との接点を途切れさせないため、スマートフォンを買い与えた。これが転機となった。自宅で自由に体が動く時間がたくさんある。初めて作った焼きおにぎりをインスタグラムにアップすると、91人から「いいね!」が来た。家族以外からほめられた。

 スマホで調べて料理を作り、興味はすぐにお菓子作りに変わっていった。さまざまなスイーツを作ってマルシェなどで販売。そして「いつか自分のお店をもちたい」と思うようになった。

 杉之原さんはみいちゃんの居場所をつくってあげようと決意。できるだけ早いほうがいい。近くに住む祖父母の家の敷地に、かわいい工房を建設。6年生だった2020年1月にプレオープンし、さらに特別支援学校中学部を卒業した23年3月にグランドオープンした。

 杉之原さんに出版社から声がかかったのは21年。この世の中、常識に縛られて生きづらくなっている子どもたちがいる。子どもたちにやりたいことをやっていいんだよと伝えたいと思った。会社員としてフルタイムで働き、3人の子どもを育てながら執筆し、24年2月に本を出した。

 本のタイトルの一部となっている「子育てのアンラーニング」。アンラーニングは、これまで培ってきた価値観を取捨選択し、新しい価値観や知識を身につけること。みいちゃんを育てるなかで、自分の人生経験や価値観を壊すことから始めた杉之原さん。「今こそ子育てにアンラーニングが必要」と話す。

 お菓子工房では子どもたちを対象に「お仕事体験」を開いている。厨房(ちゅうぼう)でみいちゃんと一緒にお菓子作りを学ぶ取り組み。杉之原さんは手応えを感じている。

 14日午後8時からクラウドファンディングで、ケーキ屋さんの従業員体験(全2回、1万円)や店長経験(全5回、2万5千円)などの参加者を募集する。子どもたちが自ら考え、自らの意思で夢に向かって走りだせる場にしたいという。

 本は376ページ。2420(税込み)。(松浦和夫)

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