朝日新聞記者(28)の祖母(81)が昨夏、特殊詐欺の被害に遭いました。翌日逮捕された受け子は、バイトと部活にいそしむ「普通の大学生」。有罪判決を受け、大学生の身分を失った彼は、記者の取材に応じ、「闇バイト」の実態を証言してくれました。
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大学の級友から「もうかる仕事」があると紹介されたのがきっかけでした。
紙袋を置くだけで1週間前後で30万円がもらえると聞いて。アルバイトはしていたけれど、友達との旅行で豪遊したいし、新しいスマホも欲しかった。
一応、詐欺ではないよなと念押ししました。でも、「脱税の手伝い」と。脱税なら誰か苦しめるわけではなさそうなので、いいかなと思ってしまいました。
特殊詐欺の「受け子」をするなんて知らなかったんです。
当日は電車とバスを乗り継いで、知らない土地に行きました。会ったこともない指示役からスマホのアプリの通話で指示されるまま、郊外の駐車場に着きました。
そこで高齢女性から紙袋を受け取りました。
この時、「脱税ではなくて詐欺かも」という思いがよぎりました。でも、指示役との通話がずっとつながっていて、途中でやめられませんでした。
指示された通り紙袋を、人気のない公衆トイレに置きました。報酬は後で渡すと言われましたが、翌日逮捕されました。
紙袋の中身は100万円だったと、刑事さんから聞きました。
それから2カ月半近く、布団と便器だけの留置場で生活しました。取り調べが連日続きました。でも、知っていることはほとんどなかったんです。
大学は自主退学になりました。将来の目標は公務員でしたが、逮捕歴があるから難しいと思っています。
100万円は両親が肩代わりしてくれました。アルバイトで自分で稼ぎ、両親に返済していきます。
家族の信頼、大学生活、自分の将来……いろいろなものを失いました。(木下広大)
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