中東産油国などの余剰生産能力が増加する見通し(サウジアラビアの石油設備)=ロイター

【ヒューストン=花房良祐】国際エネルギー機関(IEA)は16日、2024年の世界のエネルギー市場に関する報告書を公表した。2030年に中東やロシアなどの余剰生産能力が急拡大するほか、液化天然ガス(LNG)の世界生産能力も余剰になると予測した。20年代後半は化石燃料の生産が豊富で安価な時期になるとみて、その間にクリーンエネルギーへの投資を促した。

世界各国で現行の環境・エネルギー政策が続くシナリオの場合、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどで構成する「OPECプラス」の原油の余剰生産能力は2030年に日量780万バレルとなり、23年比で320万バレル増える。

余剰生産能力があると原油急騰や天災・紛争の際に機動的に出荷できるため安定供給につながる。

もっとも、エネルギー安全保障の不透明感も高いとした。余剰生産能力のうち8割はホルムズ海峡を通過する必要があるためだ。中東やロシアの地政学リスクは依然として高く、安定供給につながる低炭素技術への投資を呼びかけた。

世界最大の原油輸入国の中国はこれまで需要をけん引してきたが、EVの導入増加でガソリン消費の伸びに急ブレーキがかかる。

EVが増える北米の原油需要も減少に転じ、欧州では減少ペースが加速。この結果、30年まで世界の原油需要はピークを迎え、35年には23年(日量約9900万バレル)の水準に戻る。

LNGについては世界需要増の増加が続くが、米国やカタールなどの生産能力の伸びが上回る。30年の世界需要は23年比で約1450億立方メートル(約1億700万トン)増加する一方、生産能力は同じ期間で約2700億立方メートル(約1億9900万トン)増加する。

この結果、余剰の生産設備が30年には約1600億立方メートル(約1億1800万トン)に上るとみる。23年の5倍の規模だ。

ウクライナ紛争後にLNG需要が急増した欧州連合(EU)の消費は下落に転じるほか、中国の増加ペースが鈍化する。東南アジアとインドが成長をけん引する。

世界の電力需要は急増する。人口増、経済成長、エアコンやEV、工場・商業施設などの需要が増えるため。経済の電化で35年まで毎年、世界で日本1カ国分に相当する電力需要が上積みされる。

この結果、30年の世界のエネルギー消費に占める化石燃料の割合は75%となり、現在の80%から低下する。IEAは世界のエネルギーが産業革命以降は「石炭・石油の時代」だったのが今後は「電力の時代」になるとみている。

もっとも、中東産油国や石油メジャーのエクソンモービルは化石燃料の消費が底堅く推移するとしており、消費国で構成するIEAとは対照的な見方をしている。

IEAによると、世界の温暖化ガスの排出削減ペースは十分ではなく、2100年に産業革命前に比べて2.4度上昇する。環境規制や消費行動の変化が一段と重要になる。

50年に排出ゼロを達成するには35年まで従来の2倍のペースで再生エネや原発といった排出ゼロの電源を建設する必要があるという。

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