ノーベル平和賞の受賞が被団協に決まり、記者会見場で涙ぐむ長崎原爆被災者協議会の田中重光会長(11日午後8時12分、長崎市)=共同

ノーベル賞委員会が11日発表した平和賞授賞理由の全文は次の通り。

ノルウェーのノーベル賞委員会は2024年のノーベル平和賞を日本の団体「日本被団協」に授与することを決めた。ヒバクシャ(被爆者)としても知られる広島、長崎の原爆生存者による草の根運動であり、核兵器のない世界を実現するための努力と、核兵器が二度と使われてはならないことを目撃証言を通じて示してきたことが授賞理由だ。

1945年8月の原爆投下を受けて世界的な運動が巻き起こり、そのメンバーらは核兵器の使用がもたらす人道上の破滅的な結果について認識を高めるため、たゆまぬ努力を続けてきた。次第に核兵器使用は道徳的に許されないと烙印を押す力強い国際的な規範が醸成された。この規範は「核のタブー」として知られるようになった。

広島、長崎(の原爆被害)を生き抜いた被爆者の証言は、こうしたより大きな文脈において唯一無二のものである。

これらの歴史の証人たちは個人の体験談から、自らの経験に基づく教育キャンペーンをつくり出し、核兵器の拡散と使用に対する緊急の警告を発することにより、世界中で核兵器に対する幅広い反対運動を生み出し、定着させることに貢献してきた。被爆者はわれわれが言葉で言い表せないことを表し、考えられないことを考え、核兵器によってもたらされる理解し難い痛みと苦しみを何とか理解する助けとなっている。

ノーベル賞委員会は約80年間戦争で核兵器が使われていないという、励みとなる一つの事実を認めたい。日本被団協と被爆者の代表らによる並外れた努力は、核のタブーの確立に大きく貢献してきた。それゆえ、今日、核兵器使用に対するこのタブーが圧力にさらされていることは憂慮すべきことだ。

核兵器保有国は兵器の近代化と改良を進めている。新たな国々が、核兵器を手に入れようと準備を進めているように見える。そして、進行中の戦争で核兵器を使用するという脅迫も行われている。人類の歴史で今こそ、核兵器とは何かを思い起こす価値がある。それは世界がかつて経験した最も破壊的な兵器だ。

米国の2発の原爆によって、広島と長崎の推定12万の市民が殺害されてから来年で80年を迎える。それに匹敵する数の人々がその後の数カ月、数年間にやけどや放射線障害で死亡した。現代の核兵器ははるかに大きな破壊力を持っている。それらの核兵器は数百万もの人々を殺害可能で、気候にも破滅的な影響を与える。核戦争はわれわれの文明を破壊しかねない。

広島と長崎の地獄を生き延びた人々の運命は長きにわたり隠され、無視されてきた。56年、地域の被爆者団体と、太平洋で行われた核実験の被害者が日本原水爆被害者団体協議会を結成した。日本語での略称は日本被団協。日本で最も大きく、影響力のある被爆者団体となった。

アルフレド・ノーベルのビジョンの核心は、献身的な人々が変化をもたらすことができるという信念だった。ノーベル賞委員会は今年の平和賞を日本被団協に授与することで、肉体的苦しみやつらい記憶を、平和への希望や取り組みを育むことに生かす選択をした全ての被爆者に敬意を表したい。

日本被団協は何千件もの目撃証言を提供し、決議や公式なアピールを発表し、国連やさまざまな平和会議に毎年代表団を派遣して、核軍縮の差し迫った必要性を世界に訴えてきた。

いつか歴史の目撃者としての被爆者はわれわれの前からいなくなる。しかし、記憶を守る強い文化と継続的な関与により、日本の新たな世代は被爆者の経験とメッセージを引き継いでいる。彼らは世界中の人々を鼓舞し、教育している。そうすることで彼らは、人類の平和な未来の前提条件である核のタブーを維持することに貢献している。

24年の平和賞を日本被団協に授与する決定は、アルフレド・ノーベルの遺志にしっかりと根ざしている。今年の賞は、委員会がこれまでに核軍縮や軍備管理で授与してきた平和賞のそうそうたるリストに加わるものだ。

24年の平和賞はアルフレド・ノーベルの、人類にとって最大の利益をもたらす努力を表彰するという願いにかなったものだ。

オスロ、2024年10月11日

(共同)

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