【ビエンチャン=三木理恵子】脱炭素に関する枠組み「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」は11日、ラオスで首脳会合を開いた。温暖化ガスの排出量を把握しやすくするため、日本と東南アジア各国で算定・報告に関する共通ルールを導入する。アジアの経済発展と環境保護の両立を日本主導で後押しする。
石破茂首相が議長を務め、共同声明と10年間の行動計画をまとめた。AZECはアジアの脱炭素化をめざす枠組みで、ミャンマーを除く東南アジア諸国連合(ASEAN)9カ国と日本、オーストラリアの計11カ国が参加した。首脳会合は今回で2回目となる。
共同声明に①気候変動対策②包括的な経済成長③エネルギー安全保障――の3つの目標を同時に実現する重要性を明記した。アジアでは石炭火力発電の割合が高いなど、各国の事情を踏まえた「多様で現実的な道筋」が存在するとも確認した。
これから10年間の行動計画には「温暖化ガス排出の削減努力が評価される市場を創出・拡大するため、各国の事情に応じてサプライチェーン(供給網)全体の排出の可視化を進める」と盛り込んだ。
2026年度のAZEC首脳会合で準備状況を中間報告し、29〜34年の間に各国で排出量の算定・報告の制度をそろえていく想定だ。日本が主導して共通ルール作りを進めていく。
気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」の気温上昇抑制の目標に向け、主要国は50年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指している。取り組みには企業活動で排出される温暖化ガスの算定や報告に関するルールが必要となる。日本は26年度から法律に基づいた排出量取引制度を始める予定で、詳細な設計を詰めている。
アジアでは未整備の国が多い。インドネシアは23年から石炭火力発電所を対象に排出量取引制度を始めたものの、多くの国が導入の検討段階にとどまっている。
日本式のルールが採用されれば日本企業が東南アジアで商取引しやすくなる。東南アジアは人口増や経済成長が続いており、国際ビジネスを展開する企業にとって重要な市場になっている。
10年間の行動計画には、日本と東南アジアでクリーン技術や製品、サービスに資本を集中的に投じる方針も記した。民間の投資を呼び込むためにエネルギーやインフラ計画への「融資の可能性を高める」と書き込んだ。
農林・運輸部門でも協調を深め、持続可能な航空燃料の技術開発を加速する。
日本は現地の事情を考慮して日本側が提案する「オファー型」の政府開発援助(ODA)を活用し、東南アジアの国などに再生可能エネルギー発電や送配電網整備を支援する。
国際協力銀行(JBIC)が日本政府と共同で、AZEC参加国の政府機関との対話枠組みをつくる。クリーン電力開発の重点を置いたプロジェクトを推進する。先端技術で社会課題を解決する「スマートシティー」の確立を目指し、洪水調節や水力発電のためのダムの運用を支える。
日本主導で東南アジアと脱炭素のルールを整備する背景には、中国の存在がある。
中国は経済・外交的な働きかけを通じてアジア地域で影響力を強めている。中国は自国に有利なルールを当てはめる目的で、国際機関のトップを増やし、他国への資金援助にも注力していると言われる。経済的威圧など、法の支配や国際法に基づかない行動も目立つ。
22年2月に起きたロシアによるウクライナ侵略や米中対立で世界の分断が深まる。東南アジアは外交的に1つの国に傾斜したスタンスを取らない。日本は伝統的に良好な関係を生かして世界の共通課題となる脱炭素の問題に取り組んでいく。
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