【ニューヨーク=佐藤璃子、イスタンブール=渡辺夏奈】イスラエルがパレスチナ自治区ガザなどで人道支援にあたる国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の運営を事実上禁止する法案を審議している。法案が成立すれば支援が止まるなど「(ガザが)さらに壊滅的な事態に陥る」(グテレス国連事務総長)との懸念がある。
地元メディアによると、イスラエル国会の外交・国防委員会は6日、UNRWAの国内での活動停止に関する2つの法案を可決した。10月下旬に始まるイスラエルの国会で再び審議される予定だ。
UNRWAは人道危機が続くガザで食料の配給や医療サービスの提供などを手掛けている。9月には世界保健機関(WHO)などと協力し、子どもへのポリオワクチン接種を開始した。
パレスチナへの入境を管理するイスラエル国内での活動が停止されれば、支援が滞り、人道危機がさらに拡大する可能性がある。
イスラエルはUNRWAの職員にイスラム組織ハマスの構成員がいるとみて活動に反対している。1月には一部職員が23年10月のイスラエル襲撃に関与していたと指摘し、日本などが一時、資金援助を凍結した。UNRWAは襲撃にかかわったとされる職員を解雇した。
パレスチナで活動するUNRWAはパレスチナ人の職員を採用している。イスラエルによる占領や締め付けに反発する人は多く、過激な思想を持つ職員の排除は容易ではない。
イスラエルがUNRWAの活動停止を審議していることを受け、グテレス氏は8日の記者会見で、イスラエルのネタニヤフ首相に「深い懸念」を表明する書簡を送ったと公表した。「UNRWAがなければ大多数のガザ住民への食料、避難所、医療の提供が止まるだろう」と懸念を示した。
国連安全保障理事会は9日、ガザ情勢を巡る会合を開いた。UNRWAのラザリーニ事務局長は、イスラエルの法案が国連憲章や国際法に違反していると非難した。法案が通れば「UNRWAのインフラに依存しているガザで、人道支援全体が崩壊する可能性がある」とし、冬に近づくにつれてさらに食料や医療の提供が困難を極めると警告した。
安保理では各国からイスラエルへの非難や、UNRWAの運営維持への呼びかけが相次いだ。ガイアナのパサード国連次席大使は「何百万人ものパレスチナ人への救命支援を打ち切ることを許してはならない」と訴えた。
イスラエルの後ろ盾となっている米国のトーマスグリーンフィールド国連大使も「イスラエルの法案を、深い懸念を持って見守っている。この法案はイスラエルとUNRWAの間に存在する深刻な不信感を反映している」と表明した。
一方でイスラエルのダノン国連大使はUNRWAを批判し「イスラエルは何カ月も前から同機関へのハマスの浸透を警告してきたが、いまだに目立った行動が取られていない」と強調した。
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