中国のSNSでは、去年「放射線ブランドを避けるリスト」などというタイトルで、特定の日本の化粧品や菓子が、放射線の影響を受けているとする虚偽の情報が相次いで投稿されました。

商品の中には中国国内で、正規に販売されているものも多く見られ、購入を控えるよう呼びかけられています。これらの投稿は今も削除されていません。

こうした虚偽の情報が広がる中、消費者の買い控えにあい、店舗を閉鎖したという人もいます。

上海を拠点に日本商品の輸入や販売を手がける李萍さん(61)は、日本と中国の間のビジネスに20年以上携わってきました。

2021年には、上海市内の商業施設に北海道の菓子や日本産の酒を販売する店舗をオープンしましたが、処理水の放水が始まった去年8月以降、売り上げはオープン当時と比べて6分の1ほどにまで減少し、去年12月に閉店に追い込まれました。

現在は日本の商品を販売店や飲食店に卸したり、SNSを通して販売したりするなどしています。

李さんは「放水直後は影響は心配しなくても大丈夫だと思っていましたが、商品を買う人が減り、思い入れのあった店を閉じることになりました。今でも日本の商品を勧めると、はっきりと『ダメ』とは言わないものの、『日本の食品は大丈夫なのか?』とか『今回は遠慮する』と言う人はたくさんいます。難しい状況ですが、日本や中国の企業と協力しながら、諦めずに日本の商品を紹介していきたいです」と話していました。

日本料理店 水産物の流通影響も

日本の水産物が流通しなくなり、中国にある日本料理店では、日本産以外の水産物を使用せざるをえない状況が続いています。

中国南部の広東省広州で日本料理店の店長を務める朱淋さん(35)。

学生のころ日本に留学した際、日本料理店でアルバイトをしたのをきっかけに日本食の料理人になりました。

7年前から店長を務める店は、日本産の海鮮を使った刺身やすしを割安で食べられると評判で、日本人だけでなく中国人の客からも人気となっていました。

しかし、去年の処理水放出の直後には、中国人の客が3割程度にまで落ち込んだ時期もあったといいます。

一方で、以前と変わらずに足を運んでくれる常連客もいて、そうした客の期待に応えることができるよう、朱さんは試行錯誤を重ねてきました。

そのひとつがマグロ。世界各地のマグロを試し、当面は脂ののり方が日本産に近いスペイン産のマグロで代用することにしました。

また、中国のカンパチは新鮮で歯ごたえがありますが、味の淡泊さが課題だったため、店舗で熟成させてから提供しています。

細菌の増殖を防ぐ処理を行い、真空パックにして3日ほど氷で冷やすことでうまみを増し、日本産のカンパチの味に少しでも近づけようとしています。

こうした努力の結果、客足は徐々に戻りつつありますが、輸入停止前の状況には戻っていません。

さらに、中国景気の減速も、経営の足かせとなっているといいます。

朱さんは「広州で日本食に携わってもうすぐ10年になりますが、今が一番厳しいと感じますし、本当に大変です。でも、常連さんが『いつもおいしいものを出してくれてありがとう』と言ってくれるので、期待に応えなければいけません。日本の人も中国の人も、『日本食を食べたい』という人がまだたくさんいるので、なんとかお店を続けたいです」と話していました。

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