野村ホールディングスの奥田グループCEOと米ブラックストーンのシュワルツマンCEO

米国、欧州、日本の金融機関トップの2023年の報酬が出そろった。米国、欧州、日本の順に格差が鮮明になった。特に米国の投資ファンドトップの報酬が高く、ブラックストーンのスティーブン・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)の報酬は、日本の主要金融機関で最も高い野村ホールディングスの奥田健太郎グループCEOの260倍にもなった。各国の報酬体系や規制の違いなどが背景にある。

高額報酬で人材引き抜き

米国の金融界の中でも、投資ファンドが報酬で銀行を大きく上回っている。昨年受け取った金額が最も多かったのはブラックストーンのシュワルツマンCEOで、8億9670万ドル(1299億円)だった。そのうち約7億7700万ドル分は創業者である同氏が保有するブラックストーン株からの配当収入だった。

12億ドルだった22年からは約3割減少した。ブラックストーンの配当収入が減少したことが主因だ。ジョン・グレイ社長兼最高執行責任者(COO)の報酬額は2億6600万ドル(385億円)だった。

投資ファンドではカーライルのハービー・シュワルツCEOの報酬額も1億8690万ドル(269億円)と巨額だった。テキサスに本拠を置く投資ファンドのTPGのジョン・ビンケルリート氏の報酬は1億9800万ドル(287億円)と22年比で約6倍となった。

投資ファンドは大手金融機関の報酬を上回る。伝統的なウォール街から優秀な人材を引き抜くために高額の報酬を設定する。カーライルのシュワルツ氏はかつてゴールドマンのCEO候補だった。

報酬差の裏に規制の強弱

米大手金融機関では24年にCEOに就任したモルガン・スタンレーのテッド・ピック氏が特別報酬を含み4400万ドル(63億円)と最も多かった。株式報酬が3300万ドルと前年の約2倍に増えた。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは3600万ドル(52億円)、ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEOは3100万ドル(44億円)だった。

リーマン危機を経て、大手の金融機関は成果に応じた報酬(インセンティブ報酬)が過度なリスクテイクを助長しないようにすることを義務付けられた。金融安定監督評議会(FSOC)には大手金融機関の役員報酬に関して勧告する権限が与えられている。これが大手金融機関と投資ファンドの報酬の差につながっているとの見方がある。

株式での報酬が主流の米国では、最高値圏で推移する株式相場が報酬を押し上げている。米調査会社エクイラーとAP通信が調査したところ、S&P500種株価指数採用銘柄の23年のCEO報酬額の中央値は1630万ドルと22年比で10%増えた。一方、従業員給与の中央値は6%増にとどまり、CEOと従業員の格差も広がった。

報酬で劣れば競争力に影響

欧州勢ではUBSのセルジオ・エルモッティCEOが1600万ドル(25億円)台でトップ。救済合併したクレディ・スイス・グループの立て直しという重責を担うが、スイスのケラーズッター財務相は記者会見で「一般市民が想像できない」と高額報酬に批判的な見解を示した。

HSBCやスタンダードチャータードといった英国勢が続いた。英国当局は昨年、欧州連合(EU)が金融危機後に導入した銀行に対するボーナス上限のルールの撤廃を決めた。英国金融市場の競争力を改善させるためだとしている。

英国では、米国よりCEOの報酬が少ないことが競争力にも影響を与えかねないとの危機感がある。ロンドン証券取引所を傘下に持つLSEGのデビッド・シュウィマーCEOは株主に対し、役員報酬の引き上げに寛大になるように呼びかけている。

日本勢、全部足しても100分の1

日本の金融機関の報酬は米欧よりも少ない。3メガバンクと2大証券のCEOの報酬を合わせても1000万ドル程度で、シュワルツマン氏の100分の1程度だ。

例外は野村の法人部門を統括するクリストファー・ウィルコックス氏で、17億円を超えて、CEOの奥田氏を上回る。ウィルコックス氏はJPモルガン・アセット・マネジメントのCEOなどを務め、現在はニューヨークで勤務している。米国の人材市場の水準に合わせなければグローバルな経営人材を確保できない。

報酬助言会社の米ペイ・ガバナンスの日本代表を務める阿部直彦氏は「日本企業はいまだに横並びの報酬体系にとらわれており、特に金融機関にその傾向が強い」と指摘する。「非連続の成長や企業の革新を経営者に促す報酬体系に移行しないと海外との差は開くばかりだ」と強調する。

(ロンドン=山下晃、ニューヨーク=三島大地、東京=上田志晃)

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