インドでゲーム依存の青少年が親族に金銭を要求し、のちに殺害するという事件が続いている。インドのオンラインゲーム業界は急速に成長しているが、深刻化する依存症問題で規制を含む対応が求められている。
8月、インドの16歳の少年がゲームで失った2000ドル(約30万円)を祖母に要求し、拒否した祖母をハンマーで殺害する事件が起きた。この少年は事件の前にも家族から金品を盗んでいた。
インド北部ウッタル・プラデーシュ州でも2月、ゲームのために家族から大量の借金をしていた24歳の男が、その借金を返すための保険金目当てで母親を殺害した。
この男のおばであるサヴィトリ・シャルマさんは「おいのゲーム中毒が私の妹の家庭を崩壊させた」と、涙ながらにNikkei Asiaに語った。「彼女はおいに良い教育を与えるため、宝石を売り払った。それにもかかわらず彼は母親を殺し、遺体を川に捨てた」
何百万人ものインド人がスポーツゲームの「ドリーム11」やバトルゲーム「フリーファイア・マックス」に参加し、バーチャル世界の高揚感を味わっている。PCや携帯電話で遊べるこれらのゲーム内で、プレーヤーはチームを作り、賞金やポイントなどの報酬を獲得するために競い合う。
ムンバイを拠点とするソフトウエアエンジニアのディビジ・マトゥール氏は「有料プラットホームのゲームの中には、暗号通貨など現実世界で使える報酬を獲得できるものまである。プレーヤーにとって大きな魅力だ」と指摘した。
3月に発表された報告書によると、インドのオンラインゲーム市場は2028年までに年間60億ドルに達すると予測されており、世界で最も急速に成長している。5億6千万人を超えるプレーヤーがおり、4割は女性だ。
オンラインゲームに端を発する殺人事件が続いたことで、規制強化を求める声は高まっている。インド政府はゲーム依存症問題について調査を開始した。
インド当局の担当者は依存症について「強迫的にゲームの衝動に駆られ、精神的・身体的健康に害を及ぼす。多大な時間と金銭を消費し、他の重要な活動ができなくなったり経済的負担につながる」と指摘する。
インドの国立精神衛生・神経科学研究所でインターネット依存症を扱う医師らによると、ゲーム依存症は新型コロウイルス感染症の流行後に約200%も増加し、月30件にのぼるという。
世界最大のオンラインゲーム市場である中国の対策を見習うべきだという声もある。中国は420億ドル規模のゲーム市場、6億7000万人近いユーザーを抱えるが、厳しいゲーム規制を設けている。新たな規制では未成年者に厳しいプレイ時間の制限を設けている。政府は認可を一時停止することで新たなゲームのリリースを遅らせている。
弁護士のシビア・バテージャ氏は、ギャンブルは禁じるがブリッジやチェスなどの「技術的な」ゲームは認めるという、19世紀の時代遅れのゲーム法を更新する必要があると指摘した。「(オンラインゲームは)『ギャンブル』に分類されないため、熟練したプレーヤーはこうした規則を破り、金銭を賭けてゲームをプレイすることができる」(バテージャ氏)という。
(ニューデリー=寄稿 ニータ・ラル)
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