BYDの電気自動車(EV)「SEAL(シール)」

2024年4〜6月の世界新車販売で、中国最大手の比亜迪(BYD)がホンダや日産自動車を抜き世界7位に浮上した。低価格の電気自動車(EV)がけん引し、米自動車大手「ビッグ3」の背中も捉えた。日米欧の自動車大手に匹敵する規模となり、業界の序列を崩し始めた。急速に影響力を増す中国勢への対策が急務となっている。

自動車メーカーの発表や調査会社マークラインズのデータを基に世界販売台数を集計した。認証不正問題やEVの需要減などを受けて、首位のトヨタ自動車グループ(263万台)や2位の独フォルクスワーゲングループ(224万台)など日米欧の車メーカーは大半が販売を落とした。

BYDより上位の日本勢はトヨタのみ

BYDは98万台と前年同期比40%増えて成長率が突出している。世界販売の増加のうち、海外販売は約3倍増の10万5000台とけん引役となっている。世界販売台数が5%減の92万台だったホンダを四半期ベースで初めて抜いた。BYDより上位にいる日本勢はトヨタしかいない。

BYDの23年4〜6月の販売台数は70万台と世界10位にとどまっていたが、上位にいたホンダのほか日産やスズキを1年で抜き去った。米ビッグ3の一角であるフォード(114万台)の背中も捉えており、さらに業界の序列を崩す可能性が高い。

中国勢は中国大手の浙江吉利控股集団が11位、奇瑞汽車は15位に入り存在感が高まっている。中国勢が日米欧の自動車大手と伍す販売力を持ち、車メーカーが築いてきたサプライチェーン(供給網)を壊し始めている。

ホンダ、中国で拡大路線を転換

世界最大の市場である中国ではBYDが価格競争を仕掛けて販売を伸ばし、ガソリン車が強い日本勢は苦境に陥っている。BYDの6月の新車販売台数が前年同月比35%増と月間で過去最大となった一方、ホンダは中国で4割減と大きく落ち込んだ。

中国は日本車メーカーが00年代から中国政府の要請を受けて生産・販売を主導してきた。ホンダは中国で生産能力の3割にあたる50万台減らす方針を決めた。日本勢は拡大路線から縮小へ転換を迫られている。

中国勢の影響は世界に広がり始めている。中国の車輸出は1〜6月に279万台で、日本を78万台上回った。日本車がシェア8割のタイでは、スズキが生産から撤退を決めたほか、ホンダも生産能力を半分に減らす。

BYDは海外初の本格的な完成車工場をタイで稼働したほか、ハンガリーやブラジルでも工場を計画する。メキシコでの生産も検討している。各国でEV供給網を築けば、車メーカーへの打撃は深刻になる。

中国勢に強まる警戒、欧州は追加関税

米欧は自国産業への影響を懸念して、中国勢への警戒感を強める。米国は中国製EVへの制裁関税を100%に引き上げた。カナダも中国製EVへの関税導入を検討している。

欧州連合(EU)は7月から中国製EVに暫定的に追加関税を導入した。8月20日には最大36.3%となる追加関税の最終案を公表した。今後投票などをへて最終決定する。

BYDの勢いを止めるのは容易ではない。EUの追加関税を回避できるトルコで工場の新設を決め、現地生産してEUに輸出することで対応する。

BYDは追加関税を回避できるトルコで工場新設を決めた=トルコ大統領府提供

劣勢の日本勢にとって、今後は北米市場の重要性が増す。中国製EVは関税が高い北米市場での販売実績はほぼない。EVの需要減を受けて、トヨタやホンダのハイブリッド車(HV)の人気が高まっており、中国などでの落ち込みを補えるかが焦点となる。

自動車メーカーは販売台数を競ってきた。一定の規模がなければコスト負担が大きくなり、収益力のある新車を開発できなくなる。

ホンダと日産、三菱自動車は3社でEVで協業する方針を決めた。生き残りをかけて中国勢に対抗するために、世界でも再編が広がる恐れがある。

(沖永翔也、田中颯太)

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