中国は国産原発「華竜1号」を開発し、各地で新設を進める(福建省で稼働した華竜1号、同原発の公式SNSから)

世界の原子力発電の発電能力が2024年、6年ぶりに過去最大となった。人工知能(AI)の普及や脱炭素に伴う電力需要が急増し、二酸化炭素(CO2)を排出せず、出力の安定した原発の再興機運が高まっている。過去10年に新設された原発の6割は中国とロシアが占め、技術力も高めている。維持費は上昇し、米欧では政府が開発支援の動きを強めている。

日本原子力産業協会の集計と足元の稼働状況を加えてまとめた。6月時点で世界の原発は436基、発電能力は約4億1600万キロワットで、過去最大の18年(4億1445万キロワット)を超えた。

24年6月時点では中国、米国、韓国とインドで4基(計453万キロワット程度)が運転を始め、廃炉はロシアの1基(100万キロワット)のみだ。

過去10年に原発は70基程度新設され、発電能力は約6%増えた。中ロが新設をけん引している。

中国はこの間、39基を新設して発電能力を約4倍に高めた。24年5月には広西チワン族自治区で56基目となる防城港原子力発電所4号機が稼働した。運転中の基数は世界2位のフランスに並ぶ。電源の約7割を火力発電に頼り、脱炭素や大気汚染の改善を目的に原発新設を加速する。

運転可能な基数で日本と並ぶ世界4位のロシアも新設が続く。運転可能な33基のうち9基は過去10年で運転を始めた。輸出資源となる天然ガスを消費する火力発電所を減らすため、原発を増やす。建設中の原発は10基、計画中も20基超あり、20年代で世界4位の座を固めそうだ。

原発、米欧で再評価

国際エネルギー機関(IEA)は、50年には世界の電力需要は現在の約2倍に増えそうだと試算する。AI普及に伴うデータセンターの需要だけでも26年までで22年比で最大2.3倍になるという。脱炭素に向けて再生可能エネルギーが広がるが、安定したクリーンエネルギーとして原発が再評価されている。

仏電力公社(EDF)は5月、発電事業などを手掛ける米GEベルノバから、一部事業を除く原発の蒸気タービン設備事業を買収した。

23年の「第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)」では米欧や日本を中心とした同志国22カ国が50年に原発の設備容量を20年比で3倍の約12億キロワットに増やす目標を掲げた。温暖化ガスの削減に向けて、再生エネと共に最大限使う方針が示された。

目標達成には600基以上の新設が求められるなか、今後の新設計画は世界で約160基にとどまる。日本の同志国で現在、建設中の原発は英国やフランスなどで10基程度。スウェーデンや英国など原発に回帰する国は多いが、過去の脱原発でサプライチェーン(供給網)が弱体化し、円滑に整備を進められていない。

原発は1カ所で1000万個の部品が使われる。ひとたび建設が途絶えると巨大な供給網を保てなくなる。中ロは11年以降も国家主導で途切れなく開発を続けて、次世代炉でも「両国が世界に先行」(経済産業省)する。

23年12月には中国が山東省で世界初の小型モジュール炉(SMR)を使った原発の商業運転を始めた。その1カ月前、米国ではSMR開発の先頭を走る米新興ニュースケール・パワーが経済性を理由に計画を断念した。

次世代炉の技術力、「中国が10~15年先を進む」と米シンクタンク

米国でもSMRなど次世代炉の開発が進むが、商用化は早くても30年前後だ。米シンクタンク、情報技術イノベーション財団(ITIF)は6月にSMRなど次世代の原子炉で「中国が10〜15年先を進んでいる可能性が高い」と指摘した。

中国は世界最大の原発大国になる可能性が出てきた。中国の原子力協会(CNEA)が4月、30年までに発電規模で米国を追い抜くとの予測を示した。米国の原発の発電能力が約1億キロワット超に対し、中国は約5800万キロワットだが、既に建設中の原発が約3000万キロワット程度ある。計画段階の原発も約2500万キロワットある。

ロシアは核燃料製造に欠かせないウラン濃縮でも世界の50%近いシェアを握る。先端技術でも20年には小型炉を船舶に搭載した世界初の水上発電所を実用化し、高速炉も15年から実証炉を運転し、商用化に近づく。

中ロが原子力の開発・生産力で支配的な地位を狙うなか、民間主導で開発してきた米欧でも原発を国が支えようとする動きが顕著になってきた。

仏政府は23年6月、原発を一手に担うフランス電力(EDF)を再国有化した。仏政府高官は声明で原発新設には「再国有化が不可欠」とした。

英国も当局が認めた原発関連の投資は電気代で回収できるようにした。23年には建設や開発の司令塔として政府系の特別会社を設立した。米国もバイデン政権が22年に既存原発の運転維持へ総額60億ドル(約8700億円)を投じ、インフレ抑制法でも24年から32年までで300億ドルの税控除を打ち出した。

日本は11年の福島第1原発の事故後に国内調達網が弱体化し、原子力事業から20社以上が撤退、主要メーカーの人員数も約2割減った。国の技術開発予算も年100億円と米欧の1割未満だ。

原発の建設費は1兆円超と21年に国が想定した水準の2倍以上に膨らんでいる。英国などは費用が増えるとしても、社会が費用増を上回る価値を享受できるかを新増設の判断基準としている。電力中央研究所の服部徹氏は「日本でも脱炭素や電力の安定供給など幅広い価値を認めた上で新増設の妥当性を考える必要がある」と指摘する。

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