三菱UFJ銀行の新興支援団体が福岡に進出する(MUICの関西拠点の様子)=同行提供

三菱UFJ銀行はスタートアップの支援団体、関西イノベーションセンター(MUIC、大阪市)の福岡支部を10月に開設する。観光活性化やヘルスケアなど各種分野で課題解決力を持つ新興企業を発掘し、資金供給や実証実験の機会提供といった支援に取り組む。九州電力など有力企業でつくる「七社会」企業など地場大手との連携も狙う。

福岡の新組織は三菱UFJ銀から2人ほどの兼務担当者を派遣して立ち上げる。福岡市内には拠点となるオフィスも設ける。MUICの理事長を務める同行の早乙女実副頭取は「大企業が費用対効果で二の足を踏むとか、新興企業だと挑戦できないような実証実験を伴走支援する、あまりない取り組みだ」と説明する。

MUICは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と三菱UFJ銀が2020年に設立した団体。当初は25年国際博覧会(大阪・関西万博)に向けて関西の観光ビジネスを支援する趣旨で発足したが、足元では様々な社会課題にスタートアップの技術などで対応しようと実証実験に取り組んでいる。

三菱UFJ銀行の早乙女実副頭取は「七社会をはじめとする企業にもお声がけしたい」と話す(福岡市)

すでに実証実験を76件手掛け、19件は社会実装に至った。例えば、デジタル地図を手掛けるStroly(京都市)と組み、大阪など2府8県の観光情報をまとめて収集できるオンライン地図サービスを開発した。筑波大学発スタートアップのS'UIMIN(東京・渋谷)とは、関西のホテルで宿泊しながら脳波による睡眠計測ができるサービスを提供している。

早乙女副頭取は今後の実証実験の規模について「桁を増やして100件単位で活動できるようにしたい」と語る。福岡拠点の開設を契機にして連携するスタートアップや大企業の数を広げる考えだ。

関西ではパナソニックホールディングス(HD)や阪急阪神ホールディングス(HD)など、地元の大手企業を参画会員として巻き込みながら取り組んできた。早乙女副頭取は「七社会をはじめとする大手企業にも参画してもらいたい」と呼びかけており、これから九州企業の勧誘活動に取り組む。

MUICが初の支部を福岡市に設けるのは、全国の都市と比べてスタートアップ育成の仕組みや文化が根付いているためだ。

福岡アジア都市研究所(福岡市)によると、同市の22年度の開業率は5.3%と政令市など21大都市で最も高い。早乙女副頭取は「九州経済のポテンシャルは魅力的だ。(MUICが)すでにある大阪と補完関係になる」と評価する。

福岡市が手掛けるFukuoka Growth Next(FGN)や、ふくおかフィナンシャルグループ(FG)が23年に開いたGROWTHⅠ(グロース・ワン)など、新興支援施設も充実してきた。米国発のスタートアップ支援企業、ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)も25年春にアジア2カ所目となる支援拠点を福岡に開く。

MUICがこうした新興育成システムと円滑に連携できるか注目される。福岡でスタートアップ投資に取り組むベータ・ベンチャーキャピタル(福岡市)の林龍平代表は「新興企業の成長フェーズや事業領域ごとに選べる支援が広がる。メガバンクと接点をつくる敷居も下がりそうだ」と期待する。

(森匠太郎)

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