大成建設は2026年にも、建物のライフサイクルで生じる二酸化炭素(CO2)を4割減らす賃貸オフィスビルを大阪市内で完成させる。建物の建設から運用、解体を通じた「生涯CO2」の排出量削減は脱炭素の効果が大きく、各国で制度づくりが進んでいる。もっとも建設コストがかさむため、大成建設は賃料に転嫁できるかを検証する。
大成建設は、学校法人相愛学園と建設中の地上26階建ての複合ビルで、オフィスフロアの生涯CO2を4割減らす。対象となるのは自社が保有する10階から25階までの16フロア分だ。外壁に製造時のCO2排出量を8割減らしたコンクリートを使うほか、カネカと開発したガラス建材一体型の太陽光パネルを採用する。
国際エネルギー機関(IEA)によると、住宅やビルなど建物で発生するCO2の排出量は世界のCO2排出量の約3分の1を占める。欧州連合(EU)議会は3月、建物の生涯CO2の削減プランを採択した。欧州では英国やスウェーデン、デンマークなどで新しく建物を建設する際に生涯CO2排出量の算出を求めている。
企業もこの潮流に乗る。テック大手は生涯CO2の一部に相当する建設時CO2の削減を対外的に示す。米マイクロソフトは新設するビルやデータセンターについて、建設時CO2を削減する方針を発表している。米アマゾンは23年に米バージニア州で完成させた第2本社のビルにCO2排出量を2割減らしたコンクリートを採用したと発表した。
日本では生涯CO2の削減に向けた規制が遅れているものの、一部の自治体では動きがみられる。東京都は25年4月に大規模建築物の環境評価制度を見直し、延べ床面積2000平方メートル以上の建物で、建設時に発生するCO2を減らした物件を評価する。
大手建築設計事務所の日建設計は、東京都心で建てる超高層ビル1棟全体の生涯CO2を4割減らす設計案を発表した。CO2を吸収したと見なせる木材を使うほか、換気の工夫や給排水や空調の消費電力を建物に最適化することで実現できると訴える。
東京証券取引所はプライム上場企業に対して、気候リスク開示の国際的枠組み「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)提言に基づく情報開示を求めている。自社ビルを建て替える大手企業や事業活動の一環でビルを建てる大手不動産会社では、建設時のCO2排出量を算出する動きが広がりつつある。
大成建設は生涯CO2を減らしたビルの相対的な価値が国内でも高まることを見据え、市場の取り込みを狙う。「自ら環境性能の高い賃貸物件を建設・運営して技術やノウハウを蓄積する」(同社)。大阪市での計画に先行し、25年度中に埼玉県幸手市で完成予定の自社グループの研究施設で生涯CO2の排出ゼロを目指す。
課題はコストだ。経済産業省資源エネルギー庁の委員会によると、延べ床面積1万平方メートル程度のオフィスビルの場合、運用時のCO2を50%削減するためには従来の建物と比べ建築費が10%近く増える。生涯CO2を減らすにはさらに費用がかさむ。
環境に配慮した賃貸ビルに入居する企業にとって直接的なメリットは、ビルで使う電力にひも付くCO2の削減にとどまる。国内で増えつつある運用時のCO2排出量を減らすビル「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」との差別化がカギだ。
大成建設は割高となるコストの一部を賃料に上乗せし、環境意識が高いテナントの入居を見込む。賃料は明かしていない。
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