◆大学卒業目前に変わってしまった人生
マリオにはまったラシャドさんにとって日本は憧れの国。しかし、来日までは苦難の連続だった。 シリアのダマスカス大で機械工学を学んでいた2011年3月に内戦が勃発。5月には大学隣の政府関連ビルで爆弾テロが発生し、55人が亡くなった。内戦激化で民間人の犠牲が増える中、卒業目前の14年に母と弟妹とともに隣国トルコへ。シリア難民として認定されたものの、就労資格や住居支援はなく、宝飾品を売って暮らす日々は長く続かなかった。家族は泣く泣くトルコを出国し、シリアやレバノンなどを転々とした。ゲーム制作会社設立などの夢を語るアサード・ラシャドさん=東京都渋谷区で
トルコに残ったラシャドさんに将来の展望が見えていたわけではなかったが、偶然、国際基督教大(ICU、東京都三鷹市)のシリア人向け奨学金制度を知る。トルコの友人宅に身を寄せながら英語を動画サイトで学び、19年に合格。念願の日本の地を踏んだ。 留学の在留資格で就労も許可され、英語教師や飲食店のアルバイトに精を出す傍ら、アニメの舞台を訪問。「日本の生活は素晴らしかった。安全で、人は優しく、幸せだった」◆シリアに残る同胞たちにオンラインで働く場を
とはいえ、来日してから勉強し始めた日本語の能力はビジネスレベルにはほど遠く、アルバイト以外には就職経験もない。ICUで学んだプログラミング関連職を約30社受けたが全滅。3月の卒業直前、試用で雇ってくれる企業をなんとか見つけた。 シリアの内戦は長期化し、多くの国民が貧しい生活を送る。家庭で1日に使える電気は2時間、水道は5時間が限度。大半の子どもたちは学校にすら通えていない。「未来を担う世代に悪影響が出ている。日本人にも知ってもらいたい」と強く願う。 ゲーム作りへの思いは強い。ひとり親の母は仕事でいつも家にいなかったが、ゲームがさみしさを埋めてくれた。日本でゲーム制作会社を立ち上げても、オンラインで祖国のシリア人を雇える。 「ゲーム作りにも役立つスキルを持つ人が、シリアにはたくさんいる。彼らが働ける場を作り、経済的にも安定させたい」 ◇◆在留資格に左右される外国人就労、語学力もネックに
迫害や紛争などで命の危険にさらされ、祖国に戻れない外国人が日本で暮らし続ける場合、就職が壁となるケースが少なくない。 NPO法人「WELgee(ウェルジー)」(東京都渋谷区)は、難民認定申請中などの外国人が、専門性や経験を生かして就労し、より安定した在留資格を取得することを支援している。 渡部(わたなべ)カンコロンゴ清花(さやか)代表理事は「外国人就労は、在留資格の就労制限に大きく左右される」と指摘する。例えば、在留資格の「技術・人文知識・国際業務」は、通訳や機械工学の技術者などが対象で、認められた職務内容でしか働けない。 「新卒一括採用で従業員を育てる従来の日本企業が外国人を雇用したくても、在留資格と合わない。企業にしてみれば、専門性の高いスペシャリストでなければ、新卒などで就労経験が乏しい外国人は雇いにくい」とみる。 特に難民の場合は日本語の学習経験がない場合が多く、日本語能力不足がネックとなる。就職活動で偏見をもたれ、難民であることを隠すようになった人もいるという。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。