虐待や性被害を受けた子どもから事情を聞き取り、調査や診察を担ってきた神奈川県伊勢原市の「子どもの権利擁護センター(CAC)かながわ」が精神科の診療を始め、世界基準を満たした国内初の施設となった。運営する認定NPO法人チャイルドファーストジャパン理事長で小児科医の山田不二子さん(64)は「この場を知ってもらい、一人でも多くの子どものためになりたい」と話している。(竹谷直子)
子どもの権利擁護センター(CAC) Children's Advocacy Centerの略。虐待などを受けた子どもへの調査や捜査のための聞き取り(司法面接)と全身の診察、心の診療を1カ所で担う。CACかながわによると、米国には約1000カ所あり、欧州でも政府が資金を出すなどして設立が進む。日本では神奈川県内の2カ所のみで、資金面の課題も抱える。
◆「CVCかながわ」に児童精神科医が常駐することに
診察室でCACの必要性について話す山田さん(左)と田崎さん=神奈川県伊勢原市で(竹谷直子撮影)
CACかながわは山田さんが2015年、国内最初のCACとして開設。これまでは、十分な訓練と経験を積んだ面接者が子どもの話を聞き取り、その様子を別室で警察や検察が視聴する「司法面接」と、性被害など虐待の身体的な状況を把握する「系統的全身診察」を実施。精神科診療は外部機関に委ねていた。 4月からは保険医療機関の指定を受け、児童相談所で約20年の勤務経験がある児童精神科医の田崎みどりさん(64)が、常勤で診察。問診しながら体の状況を細かく診る山田さんと、心の状態を確認して回復を支える田崎さんで、心身のケアを1カ所でできるようになった。米機関がモデルの世界基準で求められる三つの機能を満たした。CACかながわの室内には、テディベアが置かれるなど子どもの緊張をやわらげる工夫も=神奈川県伊勢原市で
田崎さんは「性被害を受けた子どもは、大人がちゃんと聞いてあげないと、フラッシュバックや不眠などの症状を口にしないことが多い」という。「つらい症状が出るのは当たり前と伝えることも大切です」 CACかながわは開設以来、性的、身体的虐待を受けるなどした子ども83人を受け入れた。教員からの性被害で調査が不十分な例や、加害者も被害者も子どもだった例がある。 「身近で自分より優位な立場からの性被害は、子どもが打ち明けるのに時間がかかる。専門家が話を聞く場所があることを知ってほしい」と山田さん。田崎さんも「治療を受ければ回復していけることを、当たり前にしたい」と話す。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。