シンガポールで小説やビジネス書など幅広いジャンルの書籍を扱ってきた老舗書店「タイムス」が国内最後の店舗を閉めた。電子書籍やインターネット通販の拡大、テナント家賃の高騰などで、シンガポールでは過去20年に書店を経営する会社が半減。半世紀近い歴史があるタイムスも時代の波にあらがえなかった。(共同通信シンガポール支局=本間麻衣)
高級住宅地にある古い商業施設の2階。営業最終日となった日曜夕方、シャッターが半分閉まったタイムスにぽつぽつと客が入っていく。「ベストセラー」「ビジネス」と記された黒い棚には、かつて1万冊ほどの本が陳列されていたが、今は約20冊。客が代わる代わる手に取った。
「最後の瞬間を見ておきたかった」。子どものころ母親に系列店舗でよく本を買ってもらったという情報通信メディア開発庁のビクターさん(33)。自身のスマートフォンには電子書籍リストがずらりと並ぶが「紙の本をぱらぱらめくって読み返すのが好きだ」と話した。
地元メディアによると、タイムスは1978年、英語書籍を扱う書店としてシンガポールに1号店を開店。小学生の読書量が世界有数とされるシンガポールで繁華街を中心に数店を展開し、一時はシンガポール最大の売り場面積を誇る店舗も構えた。40代女性は「娘に読ませたい本をよく買いに行った」と懐かしむ。
シンガポールでもデジタル書籍を好む人は増え、2021年までの5年間で紙の本で読書をする人は2割減ったという調査もある。
タイムスは入居する建物の改装工事に伴い閉店すると説明している。営業終了を控え、フェイスブックに、本をモチーフに「私たちの物語の一部になってくれてありがとう」とのメッセージを投稿。コメント欄には惜しむ声が多数寄せられた。
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