悪質な運転で人を死傷させる危険運転致死傷罪のあり方を議論する法務省の検討会が13日、走行速度や体内のアルコール量が一定の数値を超えた場合に一律で同罪を適用することなどを柱とする報告書案を示した。ドリフト走行などの曲芸的な運転も新たに処罰対象に加えることも盛り込んだ。
同罪を巡っては、法定速度を大幅に上回る運転による事故でも適用されず、法定刑の軽い過失運転致死傷罪と判断される例があり、被害者や遺族から見直しを求める声が出ていた。
この日の検討会での議論なども踏まえ、最終的な報告書をとりまとめる予定だ。
危険運転致死傷罪は2001年に導入された。現行法では▽制御困難な高速度での走行▽アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態での走行▽信号をことさらに無視▽妨害目的で走行中の車の直前に進入したり、人や車に著しく接近したりする――など8つの行為を処罰対象とする。
法定刑の上限は懲役20年と「過失犯」の過失運転致死傷罪の懲役7年より重い。
報告書案はこのうち高速度運転と飲酒運転について構成要件を明確化して適切な運用を確保するため、新たに数値基準を設け、基準を超えた場合には一律で同罪を適用することを盛り込んだ。
高速度運転の数値基準としては、危険回避ができないような常軌を逸した速度とし、「例えば最高速度の2倍や1.5倍の速度が考えられる」とした。
飲酒運転についてはアルコール医学の専門家の意見を踏まえ、「個人差や心身の状況にかかわらず正常な運転が困難な状態」との基準を示した。具体的には呼気1㍑中のアルコールが0.5㍉㌘以上、自動的に免許が取り消される同0.25㍉㍑以上、酒気帯び運転の基準である同0.15㍉㍑以上などの意見が出ている。
新たに危険運転の処罰対象に加える行為についても検討。ドリフト走行などの「曲芸的走行」を新たに追加するよう求める一方、スマートフォンなどを操作したり、画面を注視したりする「ながら運転」については立証上の課題が多いとして慎重な検討が必要との表現にとどめた。
危険運転致死傷罪の見直しについては被害者や遺族らの意見などを踏まえ、自民党のプロジェクトチーム(PT)が昨年12月、提言を申し入れていた。中でも高速度運転への適用については検討会でも常識的に見て極めて危険性の高い高速度運転でも同罪が適用されないケースがあるとして立証のハードルの高さを指摘する意見が出ていた。
ただ、同罪で起訴された加害者に必ず「厳罰」が下されるわけではない。犯罪白書によると、22年に判決のあった危険運転致死事件21件のうち懲役10年超は4件にとどまっている。
時速194㌔でも「過失」、遺族声上げ危険運転に訴因変更
検察がいったん過失運転致死傷罪で起訴したものの、納得いかない遺族らが署名活動などを展開した結果、危険運転致死傷罪に訴因変更される事例も相次ぐ。
2021年に大分市内で発生した死亡事故が代表例だ。事故を起こした当時19歳の男性は法定速度が時速60㌔の道路を同約194㌔で走行していたものの当初は過失運転致死罪で起訴された。ところが遺族らが厳罰を求める署名を大分地検に提出し、同地検は22年12月、危険運転致死罪への訴因変更を請求し、大分地裁が認めた。
今月5日に始まった公判でも男性の運転が同罪の要件である「制御困難な高速度での走行」だったかが争われている。検察側は法定速度を3倍超の速さでの走行は「ハンドルやブレーキ操作を誤る恐れが高まる」などと主張。弁護側は事故直前まで車線を逸脱しておらず「意図したとおりに直進できていた」と反論している。
今年5月に群馬県伊勢崎市で発生した死傷事故では、飲酒してトラックを運転し、事故を起こした男性が危険運転致死傷容疑で県警に逮捕されたものの、前橋地検は過失致死傷罪で起訴。遺族らが訴因変更を求める要望書を提出し、その後、同地検は危険運転致死傷罪に訴因変更を請求した。
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