作品名は「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」。

オーストラリア出身のライオーン・マカヴォイ監督が当事者や専門家へのインタビューを通して、養育費を受け取っている割合が3割程度にとどまっていることや、男女や正規・非正規雇用の賃金格差への疑問、それに支援を受けることを“恥”だと感じているシングルマザーが多いことへの驚きなどを描いています。

東京・新宿の劇場で今月9日から公開されていて、文部科学省の選定作品にもなっています。

公開初日には監督が舞台あいさつし「手を差し伸べる人が増え、シングルマザーには差し伸べられた手を取ってほしいと伝えたい」と呼びかけました。

また、映画に出演したシングルマザーも登壇し「離婚は自分の決断なのでひたすら働いて自力でやってきた。母子家庭は恥ずかしいことではないと映画を通して気づくことができた」と話し、会場では涙を流す観客の姿も見られました。

高校生の息子を育てるシングルマザーの女性
「映画を見て、母子家庭で大変と思われたくないけど、『助けて』と声をあげてもいいんだなと思えた」

30代の会社員の女性
「自分の周りの母子家庭の人たちのことや私自身も将来なるかもしれないことを考えると、他人事ではなく、できることをしていきたいと思った」

映画は今月15日まで公開され、その後は不定期での公開を検討しているということです。

ライオーン・マカヴォイ監督 インタビュー

なぜ日本のシングルマザーに着目したのか。
監督にその理由や思いを聞きました。

きっかけは知り合いのシングルマザー
オーストラリア出身で20年以上日本で暮らしているライオーン監督が日本のシングルマザーに着目したきっかけは、知り合いのシングルマザーの存在だったといいます。

「旦那さんが新しい家族を作ったうえに、彼女の息子が病気になって経済的に苦しい状況になったのに彼女は『助けてください』と言えなかった。なんで言えないんだろうと思った。自分の国ではそういうトラブルがあったらどこに行けばいいかわかってるし、誰に相談すればいいかわかってる。この課題についてドキュメンタリーを作りたいと思った」。

母子家庭の貧困データにショック
そして、働いているにもかかわらず、貧困状態にあるシングルマザー家庭の現状にショックを受けたと言います。

国の調査では、日本の母子家庭は86.3%が就労していますが、子どもがいる現役世帯の相対的貧困率は44.5%とOECD=経済協力開発機構の平均の31.9%より高くなっています。

「この映画を作るまでは、日本はG7の国のひとつでお金持ちだし、テクノロジーは発達しているし生活に困っている人は少ないと思っていた。しかし、生活に困っている人が想像より多く、隠れてる貧困が見えてきて、まずはそれをわかってほしいと思った」。

賃金や労働環境のジェンダーギャップ
また、収入面での男女のジェンダーギャップや、正規・非正規雇用の収入格差のにも驚いたといいます。

「まず性別によって収入の違いがある。特に日本はすごいですね。シングルマザーではない女性とシングルマザーとのギャップもすごい。ママたちは怖がって仕事をしているとも思った。上司に何か要望したら、もしかしたらクビになるかもしれないという恐怖があるように見える。そういうことに制作していて気づいた」。

監督が感じた疑問
シングルマザー側の心持ちにも疑問を感じたといいます。

「最初は、なぜ養育費をもらわないのか疑問だった。支援についても『市役所は面倒だ』などと言って行きたがらない様子だったが、本当は仕事を休めないとか“恥ずかしい”からだった。海外では幼いころからシングルマザーは全く恥ずかしいことではないと知っている。日本のシングルマザーにも“助けて”と言ってほしいと思うし、そのために社会の理解が必要だと思った」。

直面した制作の難しさ
映画に出演してくれる当事者を探すことにも苦労したと言います。

「全国のシングルマザーのNPOとか団体に連絡して、1つのNPOから協力的な返事が来て、そこから紹介してもらった。『社会の目が恥ずかしいから嫌だ』とか、『元旦那のDVから逃げている』などの理由で難航した」。

どうしても伝えたかった事件
映画の中では、困窮するシングルマザーが心中しようと娘を殺害した事件など、実話をもとにした事件についても触れています。

「殺人事件の事はつらかったですね。300回くらい編集したが毎回泣いた。亡くなった子どもを忘れないために、事件を繰り返さないためにも絶対入れたいと思った」。

映画に込めたメッセージ
最後に映画に込めた思いを聞きました。

「シングルマザーには手を差し伸べている人がいますよと伝えたい。そして、『助けてください』と言うのは全く恥ずかしいことではないと伝えたい」。
そして周囲ができることとして、「まずは挨拶をしてつながりを作ることで、どんどんSOSに気づくようになる。苦しんでいる人は世の中にいっぱいいるが、笑顔でつながってほしい」と話していました。

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