都内で開かれたシンポジウムには、およそ150人が集まり、元トップ選手やメンタルヘルスの専門家などによるトークセッションが行われました。

このうち、競泳の元日本代表の萩原智子さんは、シドニーオリンピックで4位となったあと「『国の税金を使っているのに、メダルを取ってこないでどうするんだ』と直接言われた」と話し、現役時代、さまざまなひぼう中傷を受けた経験を明かしました。

そのうえで「競技人生では、地獄を見たことのほうが多いが、そのたびにいろんな方からの『ありがとう』ということばで前を向けた。自分自身の存在価値を認められる気持ちになった」と、ことばの両面性を語りました。

ラグビー元日本代表の廣瀬俊朗さんは、人を傷つけるようなことばへの向き合い方について問われ、「相手はコントロールできないので、受け取り方を大事にした。そのことばの裏側には何があるのかと考えたり、全部を受け取らないでいいかなと思ったりしたら、対処できるようになった」と実体験を話しました。

終了後、廣瀬さんは「強いと思われているアスリートも、心の悩みなど、いろいろなものを抱えている。僕たちも悩みがあってつらいときもあって、なんとか向き合っている。『みんな一緒だよ』ということを伝えていければと思う」と話していました。

パリ五輪期間中に8500件超のひぼう中傷投稿確認 IOC

アスリートのメンタルヘルスをめぐっては、インターネットでのひぼう中傷にどう対応していくかも重要な課題で、近年のオリンピックなどでも大きな問題となっています。

IOC=国際オリンピック委員会のアスリート委員会は、ことしのパリオリンピックの期間中に、選手や関係者を対象としたインターネットでのひぼう中傷の投稿が8500件以上確認されたと明らかにしました。

そのうえで「あらゆる形の攻撃や嫌がらせを最も強いことばで非難する」などとするメッセージを発表しました。

また、世界陸連も、パリオリンピック期間中のインターネットでのひぼう中傷に関する調査結果を10月末に発表し、選手や関係者1900人余りのアカウントを調べたところ、悪質的な投稿は809件にのぼったということです。

内容としては、▽性的な攻撃が30%、▽人種差別が18%となっていて、世界陸連は「アスリートへのソーシャルメディアでのひぼう中傷が、パフォーマンスだけでなく、メンタルヘルスにも壊滅的な影響を与える可能性があることは周知の事実だ」とコメントし、今後も調査や対策を続けていく方針を示しています。

IOCは、選手などをひぼう中傷から守るため、AI技術を使ってネット上をモニタリングし、該当する投稿などを自動的に削除するシステムを、今回のパリオリンピックで初めて導入しました。

それでも悪質な投稿は相次ぎ、日本選手へのひぼう中傷も起きたため、JOC=日本オリンピック委員会が大会期間中にSNSで投稿する際のマナーの徹底を求める声明を発表するなど、対策は喫緊の課題となっています。

こうした状況について、今回のシンポジウムにも参加した、アスリートのメンタルヘルスに詳しい国立精神・神経医療研究センターの小塩靖崇研究員は「SNSのひぼう中傷は規制するのも難しく、現状は厳しい状況だと思っている。アスリートだけでなく、芸能界でも、社会でも共通した課題だ。具体的な対処ではないが、つらい状況をことばで、まわりと共有できると、少し安らぐこともある。医療だけでなく、信頼できる人に相談することも、メンタルヘルスのケアだと知ってもらって、実践してもらいたい」と話していました。

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