<ジェンダー平等の今>  国連の女性差別撤廃委員会は10月末、日本のジェンダー平等の取り組みについて「最終見解」を公表し、改善が必要な項目を勧告した。非政府組織(NGO)らが委員会に訴えた内容が、反映されたものも少なくない。8年ぶりの審査を振り返るとともに、勧告の重みを3回にわたり考えたい。まずは、4回目の勧告が出た「選択的夫婦別姓」の導入から―。(酒井ゆり)

◆委員に思いを伝えると「わかってます」

 スイス西部ジュネーブで10月17日に開かれた日本への対面審査に合わせ、自分たちの「声」を届けようと、NGOの関係者ら100人以上が現地入りした。その中には、選択的夫婦別姓の導入を訴える一般社団法人「あすには」代表理事の井田奈穂さん(49)たちの姿もあった。会合の合間を使って、委員に直接思いを伝えると「I know,I know(そのことは分かっている)」。皆一様にうなずいた。

横断幕を手に、選択的夫婦別姓の導入を訴える一般社団法人「あすには」のメンバー=スイス西部のジュネーブで(酒井ゆり撮影)

 それもそのはず。委員会は、夫婦同姓を定めた民法の改正を求める勧告を2003年、09年、16年の3度にわたり出している。だが、日本では「伝統的な家族観」を守ろうとする保守派議員らの反対が根強く、議論が先送りされてきた。現在、夫婦同姓を義務付けているのは、世界で日本だけとみられる。

◆「これまで何の措置も取られなかった」

 こうした状況を踏まえ、今回の勧告は厳しい内容となった。「女性が夫の姓を名乗ることを余儀なくされていることは差別的」だと指摘。女性が希望すれば結婚後も旧姓を選べるよう法改正を求めた。さらに「これまで何の措置も取られてこなかった」と批判した。  審査の場で、岡田恵子・内閣府男女共同参画局長は「国民の理解が必要で、議論を注視しながら検討する」「不便や不利益を解消するために、旧姓の通称使用の拡大に取り組んでいる」と日本政府の立場を説明していたが、最終見解にはくみ取られなかった。

◆記者自身が「旧姓使用」の弊害体験

 政府が推進する旧姓の通称使用について、井田さんは「望まない改姓を強いたあげく、二つの姓を使い分けてというのは混乱するだけで解決策になっていない」と強調する。経団連が今年6月に出した提言も、旧姓を通称として使って働く女性たちに弊害が出ていることに触れ、「無視できない重大な課題」と指摘した。  図らずも、今回の取材で記者も、その「弊害」を体験した。仕事では旧姓を使っているため、国連に取材許可を申請する際、仕事上の姓とパスポートの姓が異なる理由を書いて提出。特に質問を受けることもなく許可されたため、問題なく会場に入れるだろうと思ったら、警備の担当者に止められた。

◆「あなたの国以外では…」同情された

 「日本はこうした問題があるのよ」。居合わせたフランス人の女性が一緒に理由を説明してくれ、何とか入ることができた。女性は委員会の元委員で、日本の実情にも詳しかった。対応を感謝すると、「あなたの国以外では、なかなか理解されないわね」と同情された。  選択的夫婦別姓の導入は、今回の勧告の中で最も重要とされる「フォローアップ」の項目に。日本政府に対し、今後2年以内に、勧告実現のために取った措置を報告するよう求めた。  「期限を示してくれたのは大きい。報告は内容が伴っていなければ意味はない」と井田さん。「あすには」では来年の通常国会での法案提出を目指し、今後は省庁や各政党を回って勉強会を開くつもりだ。  

女性差別撤廃条約 女性に対するあらゆる差別の撤廃を基本理念に1979年の国連総会で採択され、日本は85年に批准。締約国は現在、189カ国に上る。各国政府は、条約の履行状況を定期的に国連に報告することが義務付けられている。



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