ウトロの人々との交流について講演する中村一成さん=京都府宇治市で
講演会は、中村さんの新著「今日に抗(あらが)う 過ぎ去らぬ人々」(三一書房)の出版を記念して10月27日に開催。差別禁止条例ができた、川崎市の在日コミュニティーの運動などもテーマに、7年にわたり雑誌に連載したエッセーをまとめた。◆生きるため、差別と戦ったウトロの歴史
ウトロの原型は、戦時中の飛行場建設で集められた、朝鮮人労働者の宿舎。日本の敗戦後も、一部の人々はとどまって集住し、生きるために差別と闘った。 旧法の国籍条項のために国民年金から除外され、在日高齢者無年金訴訟に参加した女性は、「ばか野郎と言ってやりたい」と声を振り絞った。韓国政府が土地を買い取ることでウトロの立ち退き問題が決着した際には、「恨(ハン)が解けた」という言葉が地区で流行。在日1世の金君子(キムクンジャ)さん(故人)は「やっぱり同胞やで、民族やで」と涙を流した。◆2021年放火事件「民族差別への認識は前進」
2021年にウトロの7棟が全半焼した放火事件。「ウトロは在日のふるさと」などと記された、抵抗の立て看板も焼かれた。裁判で被告の男に懲役4年の実刑判決が確定し、在日への偏見や嫌悪感が犯行動機と認められた。「民族差別への認識は前進している」と中村さんは受け止める。 本の最終章は、ジェノサイドが続くパレスチナを取り上げた。イスラエルとのダブルルーツをもつ俳優ジュリアーノ・メル=ハミースさん(故人)は05年にウトロを訪れ、「アル=ソムード」(そこにとどまって闘う)と連帯のメッセージを残した。「彼は両方のルーツを生きると決意し、人間の側にとどまろうとしていた。レイシズムをばらまき、命の格差に値段をつけてきた世界を止めたい」と中村さんは話した。(安藤恭子) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。