過労死防止法は、過労死や過労自殺をなくすため、国が実態調査を行い効果的な防止対策を講じることなどを定めた法律で、10年前の2014年11月1日に施行されました。

この法律の制定に向けて活動した遺族の1人が「全国過労死を考える家族の会」の代表で、京都市の寺西笑子さん(75)です。

寺西さんは28年前の1996年、夫の彰さん(当時49)を過労自殺で亡くしました。

飲食店の調理師から店長になった彰さんは、不況で売り上げが減少するなか、会社から業績を上げるよう厳しく言われ長時間労働を強いられました。

寺西さんは、彰さんが仕事で使っていた包丁を大切に保管していて「17年間、調理師として腕を磨き会社に貢献しようと最後まで頑張っていたかと思うと、一番つらいのは夫です。どうして死ぬほどつらいことをひと言も言ってくれなかったのかと悔しい思いをしました」と涙ながらに当時のことを振り返りました。

過労死は個人だけの問題ではなく大きな社会問題だと考えた寺西さんは、過労死をなくす法律を作ることができないかと仲間とともに署名活動をするなどして社会に訴えました。

その活動が実を結び、2014年6月、過労死や過労自殺をなくすため国が実態調査を行い効果的な防止対策を講じることなどを定めた過労死防止法が成立し、11月1日に施行されました。

法律ができたことで国や自治体も啓発活動により力を入れるようになり、寺西さんもこの10年、学校などで講演し、社会に出る前の若者たちに過労死の問題を伝えています。

「夫の姿や形はなくても今でも一緒に生きている」と話し、彰さんが好きだったコーヒーを毎朝いれる寺西さんにことし5月、長男から連絡がありました。

スマートフォンのLINEに届いた文章は、自分の年齢が彰さんの生きた49年と44日を超えたという内容で、寺西さんは「夫から『息子たちにはおれと同じてつを踏ませるな』と言われたようです」と話します。

法律の施行から10年になりますが、過労死がなくならず、仕事で精神障害になり労災と認められた人は昨年度、過去最多となりました。

寺西さんは「この法律が職場で広まっていないことの表れだと思っています。働き過ぎて健康を害し、また、命を奪われることがあってはならないことをすべての人に認識してほしい」と訴えています。

長時間労働の抑制進むも 精神障害で「労災」過去最多に

10年前に施行された過労死防止法は、国に対して過労死や過労自殺の実態調査を行い効果的な防止対策を講じることや、遺族や専門家、労使で構成する協議会を開き、そこでの意見を踏まえて対策の基本方針を盛り込んだ大綱の策定などが義務づけられました。

そして、6年前には働き方改革関連法が施行され長時間労働の抑制が進められてきたほか、3年前にはおよそ20年ぶりに国の過労死の労災認定が見直されて残業時間の長さがいわゆる「過労死ライン」に達しない場合でもそれに近い実態があり不規則な勤務などが確認されれば労災と認めることになりました。

厚生労働省によりますと、長時間労働で脳出血や心筋梗塞などになり労災と認められたケースは減少傾向で、昨年度は216人でした。

一方、長時間労働や仕事の強いストレス、ハラスメントなどが原因でうつ病などの精神障害になったとして、労災と認められたのは883人で過去最多でした。

前の年度より173人多く、10年前と比べておよそ2倍となっています。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。