絵本「ねないこ だれだ」などで知られる絵本作家のせなけいこさんが亡くなりました。過去のインタビューを掲載します。せなさんのご冥福をお祈りいたします。(初出は2006年6月5日中日新聞朝刊。年齢などは当時)

◆親じゃなく子どもに支持された

 つぶらな目でニッコリもするおばけのはり絵や、うさぎのはり絵に見覚えある人も多いだろう。『ねないこだれだ』『せなけいこ おばけえほん』『めがねうさぎ』など、おばけに顔が広い絵本作家として知られる。『ねない…』は1969年初版以来、134刷を重ねる。

「買った紙だけでは面白くならない」と“お宝”を見せてくれたせなけいこさん。「自分のすきなものだけ描いてます」=2006年、神奈川県逗子市で

 名古屋市千種区で子どもの本専門店「メルヘンハウス」を長年続ける三輪哲さんは「最終的に親じゃなく、子どもに支持されないと残っていかない。せなさんの絵本はそっち」と話す。「作ると言うより生まれてくる感じ。『おばけになってとんでいけー』なんて表現もある。でも子どもは喜ぶ」とも。

◆「絵本作家になる」母は大反対

 当の本人は高校生から絵本作家になると決めていた。
 
 東京都生まれ。小学校からお茶の水女子大付属に。1歳からのお気に入り、画家、武井武雄さんの本『おもちゃ箱』のモダンな絵に心酔した。本の形に、何より武井さんの世界にあこがれた。母は大反対。高校卒業時に「明日から一銭もいりません」とたんかを切った。  銀行で働きながら、スタイル画を学び、コピーライターやデザインの学校に通い、19歳で武井さんに弟子入りした。構図が悪い、デッサン狂ってる、色彩が汚いー。厳しかった。「でもあきらめたら、反対する親に顔向けできないと踏ん張った」

◆はり絵こそ求めた表現

 兄弟子からはさみやのりの技術を教わった。細かい表現が難しい代わりに、すかっと決まるはり絵が自分にとって絵の具より求める表現だった。直線、細部用など三種類のはさみを使う。うさぎの輪郭などはコンパスの針でなぞってつめでちぎり、毛羽だった柔らかいラインに仕上げる。師匠も「何のために切ってるか特徴を生かせ」と。  雑誌の裏表紙や挿絵、コピーの仕事で忙しかったが、「本」の仕事はなかなか来なかった。仲間と「分からない出版社が悪い!」と強がった。落語家の五代目柳亭燕路さんと結婚、長男、長女を生みながら、入院中以外は描き続けた。  初絵本は36歳。「うさこちゃん」絵本が好きだった3歳の息子のために広告の裏で作った「にんじん」が、知人の編集者の目に留まった。「一生懸命勉強しても一生芽が出ないこともある世界。自分のやりたいことができるのは奇跡だと思う」  『にんじん』に『ねないこだれだ』など計4冊にした『いやだいやだの絵本』が翌年サンケイ児童出版文化賞に。受賞後は、年数冊の出版が続き、著作は150冊ほどに上る。

◆「子どもはこんなにおばけが好きなのか」

 息子はアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」を怖がりながらも見る。「子どもはこんなにおばけが好きなのか」。おばけとの付き合いが始まった。夫の影響もあり、幼いころから柳田国男も好きだった。民俗学講座に通い、外国のおばけもたくさん調べた。江戸時代の「稲生(いのう)物怪録(もののけろく)」を書き直した『うさたろうのばけもの日記』には完成まで10年を費やした。「日本のおばけは種類が多いし、発想がいい。文化遺産だから、そのまま伝えないと」  武井さんの一番の教えは「人まねじゃなく、はじっこみただけでも誰が描いたか分かるような絵を描け」だった。初出版から35年以上、作風はほとんど変わっていない。

◆「これだけは特別」な2冊

 神奈川県逗子市の自宅は資料本であふれる。さまざまな柄の紙がぎっしりの箱は壮観。チラシや包装紙も取っておく。27年を経て2002年に出た『めがねうさぎ』シリーズ3作目には前作と同じ紙の服が登場する。  今もNHKの子ども番組を見る。「おばけの背景は黒じゃないと変」と編集者とけんかもする。でも陰惨な話、後味悪い話は使わない。「絵本は楽しく遊べる世界。字を覚えさせようとか頭良くなるとか、そんなもんじゃないから」。その中で「これだけは特別」という2冊の絵本がある。ベトナム戦争がきっかけの『いじわる』、イラク戦争がきっかけの『おひさまとおつきさまのけんか』。「その国の子どもたちがどんなに犠牲になってるか。いい戦争なんてない。弱い存在が必ず犠牲になる。それを訴えたかった」

◆役立つものだけじゃない勉強を

 児童文学や詩、俳句、外国語の教室…、習い事や読書、勉強量が半端ではない。「普通の人が勉強することはしてないから」ととぼけるが。「すぐに役立つものだけじゃないことを勉強する、いろんなものを見る。それがスープのだしになる。いろんなものをぶちこんでこそ、いい味が出る」  長年人を引きつけてやまない味には、計り知れない材料が入っている。(野村由美子) 〈珠玉のとき〉
 特別用事がなければ、出歩いているのが好き。うちでちんまりしてるの性に合わないから。家にいるのは週に1、2日。銀座に出たら、マッサージも行って、古書店も何軒も回って。10代から古書店巡りするのが大好きだった。出かけるときは、たいてい用事の時間より早めに出て回るの。前に買った本をまた買ってしまうことも。「どうだったかなあ」と悩んだら買ってしまう。だって次にその本に巡り合うとは限らないでしょ。古い雑誌とかは、本当にないから。 

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