出演舞台「峠の我が家」について話す俳優の豊原功補さん=東京都世田谷区で
◆岩松さんの舞台「演じていくほどせりふの深みにはまる」
―2022年の岩松さんの舞台「青空は後悔の証し」にも参加。元パイロット(風間杜夫さん)の息子役を演じた。岩松作品のどこに魅了されているのか。峠の我が家の広告
岩松さんとは元々、役者として映画やドラマの現場で会っていた。劇作家の顔を知り、17年前に代表作「シェイクスピア・ソナタ」で石川県の能登を中心に四大悲劇を演目に旅巡りをする一座の中堅俳優を演じ、これまでにない充実感を味わった。現在の日本の映画や舞台では、観客が分かりやすいことを優先したせりふや構成によって興行としての安心感を担保しようとする作品に傾くことが多い中、岩松さんはそれとは真逆のことをやっている、なのになぜかひき込まれる。演じていくほどせりふの深みにはまる面白さがある。 「中田代表」の部下の富永は、戦争で家族を失い精神のバランスを壊している。でも戦争を憎むのではなく、戦争で破壊された富永が他人との関係を築けずボロボロになる現在に焦点を注ぐ。マクロではなくミクロの世界から戦争の残酷さを浮かび上がらせている。◆「人間の感情、善と悪に簡単に分けられない」
出演舞台「峠の我が家」について話す俳優の豊原功補さん=東京都世田谷区で
―「峠の外に出たい」と安藤にひかれる妻斗紀の心を察するかのように「旅館を去る」という安藤を夫の正継が引き留めるシーンも印象的だった。 人間の感情はとても複雑で善と悪に簡単に分けられない、むしろそれらが常に交錯している。戦争や老い、家族や親戚との日々の会話は、あやふやな言い方やつながりのなさそうな言葉の繰り返しで、せりふでも平易な言葉が多用される。岩松さんの脚本から紡ぎ出される世界観、哲学・思想は、稽古を繰り返す中でじわりじわりと自分の深層心理に働きかけてくる。◆「さまざまな反応が出る舞台が作れればいい」
―中田代表の「われわれは善なるものにすがろうとして結局は悪に加担しているのでは」「私が幸せを感じるために世界の戦争は続いているんですか」など、戦争や人間の愚かさへの問いが、せりふの所々にちりばめられている。 演じて「終わったー」と快哉(かいさい)を叫び、晴れ晴れとガッツポーズを取るような舞台もあるが、岩松作品は絶対にそうはならない。むしろ演技を重ねるごとに、哲学的な思考を重ねて落ちていくような感じがある。その感覚が心と身体に刻まれていくのが魅力だ。出演舞台「峠の我が家」について話す俳優の豊原功補さん
最初に参加した岩松作品「シェイクスピア・ソナタ」は40代。自分も岩松さんも年を重ね演じることや言葉への受け止めも随分変わった。22年は尊敬し、共演を熱望した風間杜夫さん演じる元パイロットの長男役。今回は、キャストでは、岩松さんに続く年長者で道場を経営する彫刻家。役どころは年々難しく、せりふも長く複雑なものが増えてきたが、楽しんでいる。 日本の政治や世界の紛争を見ると絶望しかない。でも世界各地で戦争や革命が起き、その悲惨な現実を背景に数多くの演劇、映画作品が生まれ続けている。それが人類の歴史。舞台に希望を俳優として見いだしているわけではないのだが、観客が「こういうことか」とうなる、感動する、もしくは「??」と自問自答を始める、そんなさまざまな反応が出る舞台が作れればいい。岩松作品の魅力と深さをぜひ、堪能してもらいたい。 ◇ ◇ 前売りは完売。当日券あり。全席指定で8000円。問い合わせは、M&Oplays=電03(6427)9486。ウェブは「峠の我が家」で検索。〈あらすじ〉 峠にある古い一軒の家は、夏の間観光客を受け入れる「峠」という旅館を営んでいる。ここに住むのは主人の佐伯稔(岩松了さん)、息子の正継(柄本時生さん)と妻の斗紀(二階堂ふみさん)。ある日、若者の安藤修二(仲野太賀さん)が訪ねてくる。安藤の目的は、兄の戦友の家に戦友の軍服を届けること。ある事情で佐伯家に嫁ぎながら、ここではないどこかに思いをはせている斗紀は、次第に安藤に救いを求める。旅館を度々訪れる中田代表と家族を戦争で失った部下の富永(新名基浩さん)も加わり、事態は思わぬ方向に…。
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