マレーシアのボルネオ島サラワク州が、東南アジアで初めて次世代エネルギーの水素を使った公共交通網の構築に乗り出している。豊富な水資源を生かし、水素や再生可能エネルギーの供給拠点(ハブ)として成長戦略を描く。他州に比べ自治権も大きく、存在感を増している。(共同通信シンガポール支局=角田隆一)
▽日韓企業、自国に輸出
人口約70万人の州都クチン中心部に赤い小型バスが停車している。発車時刻になると、観光客や住民が次々と乗り込んでいく。一見すると普通のバスだが、中国製の水素燃料電池車だ。現在は3台を保有し試験走行。年内に55台を調達し、公共バス網を整える計画だ。
運営するサラワク・メトロ幹部のアレクシス・バーリェン氏は「当初、市民は安全性に不安を抱いていたが、今はない。試験走行後に事故は一度もない」と話す。2025年末には水素で走る中国製の路面電車を導入する方針だ。
サラワク州は、利用時に二酸化炭素(CO2)が発生せず、環境に優しい水素の燃料や原料としての可能性に注目。製造には手法によってガスや大量の電力が必要だが、豊富な雨量があり、大河を擁するサラワク州は化石燃料を使わない水力発電で水素を作れる。
現地では住友商事やENEOS(エネオス)の日本勢と、韓国企業がそれぞれ水素を製造して自国へ輸出する計画を進める。州政府傘下のSEDCエナジーのロバート・ハーディン最高経営責任者は「技術を持ち需要のある日韓と組む利点は大きい」と強調する。
▽データセンター、半導体誘致も
水素に加え、州では原発20基分に相当する潜在力を持つ水力発電や、アブラヤシの廃材によるバイオマス発電など再生可能エネルギーの開発を強化。シンガポールへの電力送電のほか、南シナ海経由で水素を輸出する青写真を描く。ハーディン氏は、輸出だけでなく「電力が大量に必要なデータセンターや半導体産業を誘致する」と語る。
サラワク州はイスラム教が国教のマレーシアでキリスト教徒が多数派。英領からマレーシアに加入したのは1963年で、独自の歴史や文化を持つ。アンワル首相率いる中央の連立政権は州の地域政党連合なしには過半数を確保できす、州側の要求に沿う形で近年自治権の拡大が進む。
一連の開発も経済自立への一環だが、州議会野党のヨン議員は「(交通網も水素の計画も)投資が多額でリスクが大きい。費用対効果や実現可能性が疑問だ」と懸念を示す。ただ住友商事クチン支店長の宮田和幸氏は「調達地域が分散できるため、水素は日本のエネルギー安全保障にとっても重要だ」と話した。
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