世界中で課題となっている海洋プラスチックごみ。環境省によると、日本に漂着するごみの中でも、魚を捕るナイロン製の網(漁網)やロープといった漁業で出るごみの容積は全体の3割ほどを占める。  これを減らすため、ごみとなった網をおしゃれで質の良いバッグに変える。そんな再利用に取り組む団体がある。

漁網からできた生地と、放置竹林の竹を素材にした「FUMIKODA」のハンドバッグ=東京都中央区で

 一般社団法人「アライアンス・フォー・ザ・ブルー」(東京都港区)は2020年1月に設立した。業界を越えた約70社と提携し、海洋ごみの調査やものづくりを行う。うち20社弱の企業と個人のクリエーターは、漁網を使った商品化を試みている。  漁網から作った生地を使い、バッグやランドセルなど200種類以上の商品化につなげた。ブランドが違っても共通のマークを付け、売り上げの一部を「海のゆりかご」とされる海藻が多く茂る藻場の再生プロジェクトに充てている。

漁網を使ったリサイクル素材でできた布と、それを使ってできたランドセルを持つ野村浩一さん=東京都中央区で

 野村浩一代表理事(60)は「事業の規模が大きくならないと廃棄漁網は減らず、根本的な問題の解決にならない。たくさんの人に買ってもらう仕組みを作るのが課題」と話す。

◆リサイクル素材のバッグ、またリサイクルも可能

 7月の新作発表会で目を引いたのは、環境に配慮したものづくりに取り組む「FUMIKODA」(目黒区)のハンドバッグ。漁網からできた生地と、放置竹林の竹を素材にした人工皮革でできている。税込み4万4千円で、利用者からは「軽くて丈夫」「はっ水で使いやすい」と好評だという。リサイクル素材で作られたバッグ自体が、リサイクル可能というのもセールスポイントだ。  同社が20代以上の男女407人に実施したインターネットによるアンケートでは、89.4%が「デザインや機能に差がなければサステナブルなものを選びたい」と回答。潜在的な需要の大きさがうかがえる。

◆魚網はどうやって布になった?

 捨てられるはずだった漁網は、どのように布に変わったのか?  生地の元は、主に北海道東部にある厚岸町(あっけしちょう)などでサケやマスの漁に使われた漁網。1~2年で使えなくなるため、漁師から連絡を受けた地元業者が回収する。

北海道厚岸町で漁師や漁業業者から回収した漁網(リファインバース提供)

 漁網は、再生樹脂メーカー「リファインバース」(千代田区)が運営する愛知県一宮市の工場に運ばれ、洗浄、細断、加熱し、粒状の再生プラスチックのペレットにする。リファインバースや東京都台東区の会社がこのペレットを原料にして糸をつむぎ、布にする。生地に含まれる漁網由来の再生プラは約25%。100%にするには高コストで耐久性の問題もあり難しい。

漁網から作られたペレット(リファインバース提供)

ペレットから作られた糸と生地=東京都中央区で


 使い終わった漁網は、処分業者に有料で引き取ってもらうことがほとんどだった。処分前に港に山積みにしておくと、台風などで海に流出してしまうことも。そうなると、海洋ごみとなった漁網は劣化が進み、再利用すらできない。漁網の回収では、漁師や漁協は事前にごみなど付着物を取り除いておくだけでいい。  漁網リサイクルを16年から始めたリファインバースの玉城(たまき)吾郎取締役(40)は、「日本中を見ればまだまだ捨てられている漁網は多く、集めきれていない。漁網もアルミ缶やペットボトルみたいに再利用されることを当たり前にしていきたい」と語った。

◆アップサイクルって?

 漁網を生地に変えることは「アップサイクル」と呼ばれている。「リサイクル」と何が違うのだろうか。  リサイクルは、古紙を回収して溶解し再生紙の原料にしたり、空き瓶を砕いて新しい瓶の材料の一部にしたりする。資源として再利用することだ。  アップサイクルは、廃棄予定だったものに手を加え、新たな材料や別の用途のものに作り替えること。廃材で作った家具、ジュースで搾った後に出たカスで作ったチップスなどがある。  リサイクルとの厳密な違いは難しいが、「新たな価値の付与」がポイントだ。野村代表理事は「価値の高いものに生まれ変わっているという点で、アップサイクルと呼んでいる」と話す。  古着をぞうきんに、新聞紙やチラシを折ってごみ箱にすることなどは「ダウンサイクル」と呼ばれ、それらは使い終わったら、ごみとして廃棄される。

◆今月の鍵

 東京新聞では国連の持続可能な開発目標(SDGs)を鍵にして、さまざまな課題を考えています。今月の鍵はSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」と目標14「海の豊かさを守ろう」。  発表会で見た製品は、いずれもハイブランドのバッグと感じさせるような優れたデザインだった。軽くて耐久性も高いとなると、新しい仕事用バッグにぴったりかも。  文と写真・鈴木里奈

鈴木里奈(すずき・りな)=社会部

 1992年、名古屋市出身。2015年入社。三重総局、江南通信部、北陸報道部などを経て2024年3月から東京本社社会部。これまでLGBTQや障害者福祉、外国人労働者の問題といったマイノリティーの取材に力を入れてきた。現在は下町地域を担当し、浅草の三社祭ではお神輿も担いだ。浅草や上野で外国人に道を聞かれるのが日常茶飯事。ピアノとチェロが少し弾けるので、文化や芸能分野の取材に行くときはわくわくしている。▶▶鈴木里奈記者の記事一覧




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