氾濫した塚田川で、安否不明者を捜索する警察官ら=23日、石川・輪島市久手川町
◆間もなく脱穀予定 食べてもらうのを楽しみに
弟が暮らす同市久手川町(ふてがわまち)の実家は地震で全壊。それでも松夫さんは「地震でひどい目に遭っても田んぼはするんだ」と市内の仮設住宅から車で実家に毎日通い、弟と一緒に近くの田んぼで農作業を続けた。手作業で田植えをし、稲刈りも終えて間もなく脱穀する予定だった。敬蔵さんは「家族や親戚に配り、食べてもらうのを楽しみにしていた。今年の新米にしようね、と話していたのに」と悔やむ。 能登地方に大雨が降った21日午前、松夫さんから敬蔵さんに電話があった。「いつもと雨の様子が違う。仮設に戻る」。昼前に敬蔵さんが仮設住宅へ様子を見に行くと、父の姿はなかった。警察や消防から、実家の目の前を流れる塚田川が氾濫していると聞き「どこかで生きていてくれ」と願った。◆「2人一緒に見つかってほしかったのに」
だが22日、実家を訪れると、跡形もなくなっていた。「あぜんとした」。地震後、7月に仮設住宅に入居するまで、松夫さんは毎日のように寝起きするほど、実家を大切にしていた。敬蔵さんは「何か手掛かりはないか」と父を捜し回ったが、同日午後、警察から遺体発見の連絡を受けた。 松夫さんが見つかったのは、塚田川下流の流木が集まっている場所だったという。「見当違いの場所を捜していた。本当に、言葉も出ない」。弟の前川さんは今も安否が分からない。敬蔵さんは「2人一緒に見つかってほしかったのに」と目を赤くした。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。