能登半島地震で倒壊した石川県輪島市中心部の老舗漆器製造店「五島屋」の7階建てビルについて、上層階から段階的に公費解体する方向で、市が国土交通省と調整していることが分かった。基礎部分の解体を後回しにすることで、倒壊の原因調査への影響を防ぐ。(脇阪憲、上田千秋)

歩道部分にはみ出した上層階から解体する方向で調整が進むビル=19日、石川県輪島市河井町で

◆笑いながら写真撮影する観光客

 上層階から段階的に解体するとの方針は17日、市内であった住民懇談会で坂口茂市長が明らかにした。住民からの「(ビルを)笑いながら写真を撮っている観光客もいて、気持ちが沈む。市としてどう考えているのか」との問いに答えた。  市によると、ビルの所有者は公費解体の申請を市に提出しており、市は解体工事を発注できる状態になっている。  一方、ビルの下敷きになった居酒屋の店主で、店舗兼住宅にいた妻と長女を亡くした楠健二さん(56)は、倒壊原因が分かるまで解体しないよう求めており、独自の原因調査を建築士に依頼している。

◆「原因究明に影響しない部分は仕方ない」

 楠さんは「原因究明に影響しない部分の解体は仕方ない」と理解を示すが、根元が折れるようにビルが横倒しになったことには「あの倒れ方はおかしい。2人は地震で死んだとは思っていない」と疑問を投げかける。「国は自分(楠さん)のために調べているわけじゃない。原因を調べきらないと、2人のためにならない」と独自調査の意義を説明する。  その結果、建築上の問題が見つかれば訴訟も辞さない考えで「家族を守れなかった負い目はこの先も残るだろうが、もし瑕疵(かし)がないと分かれば、少しは仕方ないと切り替えられるかもしれない」と語る。  ビルの倒壊原因をめぐっては、国交省の依頼で調査を進めている東京工業大の田村修次教授(地盤工学)らが、コンクリート製などの杭(くい)を地面下に打ち込み固定する「杭基礎」で支えられた建物が、地震で倒壊した国内初の事例の可能性が高いと明らかにしている。ただ、杭基礎の破損経緯は不明で調査を続けている。


鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。