非常に強い勢力の台風7号が関東に接近した16日、各地で公共交通機関がストップした。駅には立ち往生する外国人の姿も。増え続けるインバウンド(訪日客)や在日外国人は、災害情報をどう得ているのか。必要な支援を考えた。(西田直晃)

◆新幹線止まると知ってたけど、大阪には行けると思ってた

 「友達と大阪で合流するつもりだった。新幹線が動かないなんて。ホテルで教えてもらえなかった」

台風7号の接近で鉄道のダイヤが乱れ、スマートフォンなどを見る外国人ら=16日午前、JR東京駅で(須藤英治撮影)

 16日午前、東京駅の東海道新幹線の改札前で、スーツケースを脇に座り込んでいた米国人女性(31)はぼやいた。「タイフーン(台風)が来る」と知っており、東京-名古屋間の終日運休も把握していたが、地理が分からず「新大阪には行ける」と思っていたという。みどりの窓口に向かっていた米国人男性(57)は「京都行きの予定を変更し、浅草を観光したい。どうやって行くのか」と記者に逆質問。「悪天候では楽しめないかも。ツキがない」とこぼした。  首都圏を襲った巨大台風といえば、2019年10月の台風19号がある。東日本を中心に100人超の死者・行方不明者が出た。  このとき訪日中の182人の外国人に対し、民間調査会社サーベイリサーチセンター(東京)が行ったアンケートでは、5割強が「日本のテレビやラジオ」で事前に災害情報を知ったと答えた。一方、母国で台風に遭った経験がなく「状況が分からなかった」との回答も3割弱を占めた。「運休情報が母語で表示されていない」「日本の地域・場所の名称が理解できない」といった声も目立った。

◆インバウンドも在日外国人も過去最多を更新

 担当者は「欧州出身者は台風と聞いてもイメージがつかみにくい。台風を理解できても、テレビの警報表示は日本語で、危険度をどこまで把握できるか分からない」と説明する。情報弱者の外国人が駅で右往左往する例は、後を絶たない。課題解決に向けて「チェックアウトの際、宿泊施設が交通情報を伝えられないか」と提案する。

台風7号が接近しダイヤが乱れるJR東京駅で、不安そうな表情の外国人旅行客=16日午後0時2分(須藤英治撮影)

 この夏、台風や地震に見舞われる日本だが、インバウンドは増加の一途をたどる。日本政府観光局によると、6月は313万人(推計値)で、コロナ禍前の2019年6月比で8.9%増となり、単月としての過去最多を記録。同じく上半期の累計1777万人も最も多かった。日本に暮らす外国人も増えている。法務省によると、昨年末の在留外国人数は341万人とこちらも過去最多を更新した。

◆「災害のリスク、観光地の魅力と一緒に伝えるべき」

 災害時に外国人住民の要望に応じるため、「災害時多言語支援センター」を開設する態勢を整えている自治体は多い。台風7号の接近に伴い、15日にセンターを立ち上げた千葉県は英語、中国語などの12言語で、外国人の相談や市町村の通訳の依頼に応じる。5年前の台風19号では、外国人住民への対応に苦慮したという。担当者は「行政の発表事項は全て日本語。災害情報に加え、避難所の状況や経路も外国人に分かりにくかった」と話す。  災害時の外国人の支援に必要な視点は何か。三重大の川口淳教授(地域防災学)は、在日外国人以上に、インバウンドへの支援が遅れているとの認識を示し、「災害のリスクと観光地の魅力は一体的に知らせるべきだ」と説く。訪日外国人は能動的に災害情報を得る必要に迫られている。「災害・交通情報を把握できる、外国人向けの多言語ポータルサイトを国の責任でつくれないか。携帯電話の位置情報を活用し、避難に必要な情報が個人に届く仕組みも望ましい」と述べた。 

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