京都・北山のビルを地下1階に下りると、約60平方メートルのスペースに特徴的な茶道具の数々が並ぶ。今年で開館10周年の古田織部美術館。人気漫画の主人公にもなった武将茶人・織部の実像を伝えてきた。宮下玄覇館長(50)は「桃山時代にあって織部は個性を前面に打ち出した。多様性を重んじる現代にも通じる姿に触れてほしい」と話す。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に仕えた織部は、千利休に茶の湯を学び、江戸幕府2代将軍の秀忠に指南する立場まで上り詰めた。独創的なセンスも発揮。ゆがんだ茶わんや色鮮やかな皿を提案して世に流行させた。
近年、織部の知名度を一躍高めたのが山田芳裕さんの漫画「へうげもの」だ。「ひょうげもの」と読み、ひょうきん者やおどけた者の意。織部を文化や芸術にのめり込む異才の数寄者として描いて話題となった。
同館では10周年記念として「古田織部の実像」を企画し、織部焼の茶わんや皿の他、「織部好み」と称される釜や盆といった茶道具、自筆の書状など約50点を展示。宮下館長は「当時では非常識なものを肯定した織部は、同時代の世界でも珍しい前衛芸術家だったと言える」と解説する。
幼い頃から古美術ファンだった宮下館長は、22歳の時に手に取った「黒織部茶碗」をきっかけに織部に魅了された。茶道具などを買い集め、織部の四百回忌となる2014年に合わせ、京都・鷹峯に美術館をオープン。2016年に現在の場所に移転した。コレクション数は約千点に上る。
「織部焼の茶わんばかりがクローズアップされるが『天下一の茶人』の全体像を知ってもらいたい」と宮下館長。茶道人口の減少に歯止めをかけたいとの思いも強い。
開館以来、書状の鑑定などを通じて新たな発見にもつなげた。今後の展望について「海外で織部人気に火を付け、世界から逆輸入する形で盛り上げたい」と話している。
「古田織部の実像」は9月8日まで。入館料は大人500円など。問い合わせは同館、電話075(707)1800。
漫画「へうげもの」 2005~2017年まで講談社の青年漫画誌「モーニング」で連載された作品。織田家の家臣時代から、徳川家康に謀反を疑われて切腹するに至る古田織部の生涯を大胆な歴史解釈を交えてユーモアたっぷりに描いた。焼き物や美術、建築などの日本文化にも焦点を当てた。2010年に手塚治虫文化賞マンガ大賞。NHKでアニメ化もされた。
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