千葉県大多喜町にアトリエを構え、縄文時代の土偶の複製を作る田野紀代子さん(74)が500体目を完成させた。「土偶は縄文人の精神性を表現している」と制作に没頭し、開始から約15年半で到達した。子ども向けに制作体験教室を企画したり、海外で展示会を開いたりする夢を描いている。

 出土した土偶を精巧に模倣し、アトリエに展示している。「縄文人がどんな気持ちで作ったのか。思いをはせながら、当時と同じ方法で魂を込める」。土偶のことを考えない日はない。

 出土した際の報告書を読み、博物館で実物を観察する。その上で、作られた地域や時代、使われ方を想像しながら、土偶を見つめる縄文人の中にいる自分を想像する。

 素材や作り方を可能な限り再現している。粘土は自ら採取し、試し焼きを繰り返す。制作に神経を集中していると、縄文人の土偶への思いが伝わってくる気がしている。「近代的なやり方で作ったら意味がないんです」

 500体目は、1体目に作った山梨県出土の土偶をより正確に作り直した。300体目は長野県の「縄文のビーナス」、400体目は青森県の「合掌土偶」だった。両方とも、国宝の土偶を複製した。

 田野さんは千葉市生まれで、グラフィックデザイナーとして約40年間働いた。土偶に興味を持つきっかけになったのは2008年、知人から縄文土器が面白いと聞いて参加した千葉市立加曽利貝塚博物館の土器づくり体験講座だった。同じ年に最初の土偶を作った。

 作品は県内外の施設で展示されてきた。5年前に千葉市で開いたアトリエ「土偶ZANMAI」は昨年12月、大多喜町の山あいに移した。広くなったアトリエには現在、約450体が並ぶ。

 6月上旬に500体を制作した記念のセレモニーを開き、考古学の研究者や知人ら約70人を招いた。東京都教育委員会の学芸員だった安孫子昭二さんは「忠実に復元された土偶を一度に見られる」。文化庁の主任文化財調査官だった原田昌幸さんは「時空を飛び越えることができる」と話した。

 田野さんは「これからもひとつひとつ丹念に作る」と話す。アトリエの見学は金、土、日曜。希望者は事前にメール(0521himeko@gmail.com)で田野さんに連絡する。(中野渉)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。